1.フロイトの精神分析の影響を感じさせるサイコ・スリラー。
既にドイツ時代に「M」で猟奇的な殺人鬼を描いているが、アメリカ時代のラングに重々しい空気と恐怖感は余りない。
その反面、娯楽として素直に楽しめる気軽さが増した事は確かだ。
この作品は1948年の作品だが、1940年に公開されたヒッチコックの「レベッカ」を思い出させる。
私も完成度で言えばヒッチコックに軍配を挙げるが、本作は本作でラングの実力を充分堪能できる作品だ。
ヒッチコックも「汚名」や「海外特派員」で扉を効果的に使っているが、ラングの場合は扉(とにかく脱出口)をこじ開けないと絶体絶命というシーンが多い。
「メトロポリス」や「怪人マブゼ博士」は、迫り来る水から逃れるべく登場人物が出口を確保しようと必死に足掻く。
一方で「死刑執行人もまた死す」のように“思わぬ援軍”の登場を予感させる場面でも効果的に使われている。
ヒッチコックが徹底的に扉に“謎”や“危険”を隠したならば、ラングは扉を“脱出口”や“希望”として徹底的に描いた作家と言えるかも知れない。
「扉の影の秘密」は、ヒロインにとって危険でもあり希望でもある「扉」を描く作品なのだ。
だが残念な事に、「扉」にはヒッチコックの「レベッカ」と同じようにヒロインの生死を左右する“危険”で満ち溢れいていた・・・それは見てのお楽しみ。
ラングのアメリカ時代の到達点が「暗黒街の弾痕」または「条理ある疑いの彼方に」だとすると、この「扉の影の秘密」は40年代の到達点と言って良い。