2.《ネタバレ》 【ドラゴン怒りの鉄拳:1972年‐以下、オリジナル版と表記します】は、個人的にインパクトがある作品でした。その後、続編やリメイクが幾つかあるとわかり、当サイトを拝読。当作品に一番、興味をそそられたので、レンタル店でDVDを取り寄せてもらい鑑賞。
率直に、良心的なリメイクだと思いました。
まず【脚色】に感心しました。「○○人が全て善で、□□人が全て悪というわけではない。他者を貶め、排斥し、対立や暴力を煽ろうと画策する者が悪であり、どこの国にもいる。場合によっては、それまで虐げられていた人々が、差別・排斥する側に転じることもある。しかし良識のある人達だってどこの国にも存在するのだ」とでもいうような【ニュートラルな視点】に立とうという努力が、随所から伝わってきたからです。
また【オリジナル版】のストーリー展開が、警察や司法が殆ど関与できないまま、いわゆる【私刑の応酬】がエスカレートしていくという凄惨なものだったのに対し、当作品は、それらが関与して最悪の状況を回避し、最終的に粋なエンディングで締め括っているのも、工夫しているな…と思いました。
そして【良識ある日本人】を、倉田保昭さん(村越先生)、中山忍さん(山田光子)、高橋利道さん(日本領事)…というように、日本人の俳優・女優で固めたのも配役の妙だと感じました。
なお、日本人に扮した中国の俳優さん達が喋る日本語の響きには、当初、違和感がありましたが…これについては「おそらく、日本の俳優さんが他の映画で、中国語や英語を一生懸命に練習して喋ったとしても、中国や英・米のネイティブスピーカーの人達には、このように聞こえるだろうな」と思ったので、割りきりました。
ただ、中山忍さんの台詞回しがあまりにも拙く、同時期の【ガメラ 大怪獣空中決戦:1995年】を知っているだけに、最後まで猛烈な違和感が…特に【声の質】が違う印象を受けたので、何らかの事情で、他の(中国の?)女優さんが吹き替えたのかもしれません(それとも1994年から95年の1年間で、演技力が向上した?)。
一方、アクションも見応えがありました。ジェット・リー(リー・リンチェイ)さんのアクションは、ブルース・リーさんをリスペクトしていると、私にもわかりましたし、その上で、一味違う切れと迫力を出していて素晴らしかったです。
対峙する俳優さん達のアクションも皆、達者でしたが…何といっても、他のレビュアーさんもふれているように【村越先生との対戦】が印象的でした。向かい風により目にホコリが入って戦い難そうにしている村越先生に対し「フェアじゃないから、互いに目隠しをしよう」と申し出るチェンの態度といい、今は亡き霍(ホン)先生へ届けるように「あなたの弟子は、こんなにに立派です」と、対戦後にチャンへ贈った村越先生の言葉といい、気高い精神に溢れた名場面だと思います。「そもそも、このような場面を閃いた脚本家の発想が素晴らしい」と感心したのですが…観終わった後に調べたら、ゴードン・チャン監督が脚本も兼ねていたのですね。こうした発想を抱くことが出来るからこその【ニュートラルな視点に立った良識ある脚色】なのだと、さらに感動しました。
惜しむらくは、ヒロイン・光子の【途中退場】でしたが…【周りから受け入れてもらえてハッピーエンド】というのも無理があっただろうな…と考えられます。光子に同情してくれる人もいたわけだし、命を奪われてしまう幕切れにならなかっただけでも十分だったのかも…と思うことにしました。
それに、エンディングタイトルの最後に、スタッフさん達と一緒に中山忍さんも笑顔でカメラに向かって手を振る画面が映し出されました。きっと撮影現場は、映画と違い、中山さんも溶け込んで和気あいあいとしていたのでは…と推察しています。
さて、採点ですが…【オリジナル版】が重々しく心に突き刺さった私にとって、自身の気持ちのバランスを保つために、当作品は、大変、救いになりました。良心的なリメイクとして10点をつけたいところですが…【オリジナル版あっての作品】ということもあり、【オリジナル版】と同様に9点を献上させていただきます。今後も【オリジナル版】と当作品は【両輪】として、私の心の中で大事にしていきたいです。
*【ドラゴン怒りの鉄拳:1972年】は、別途、レビューを投稿しております。