1.赤狩りによって国外へ逃亡し、その後一度もアメリカへ戻らずに生涯を終えたジョセフ・ロージーが、裏切られた革命家レフ・トロツキーの最期を描くというフレーム外の凄みに対抗するように、豪華出演陣の熱演およびメキシコの鈍い大気がフレーム内でひしめいている。体感温度がどんどん上昇していく感じ。アラン・ドロン以上の存在感を出したトロツキー役のリチャード・バートンが良かったのはもちろんだが、妻役の人がこの映画では特に良かったように思う。トロツキーが自宅で自らの声明を録音している時に突然窓が開き、庭の風景と共にその窓を開けた妻が現れ、トロツキーは続けて妻への愛情を録音するという、おそらくこの映画で最も美しいシーンでも、慎ましやかに登場しながら笑顔で静かに画面から去っていくのだが、革命家の妻であるということへの絶望を背負いながらもそんな素振りを少しも見せずに良き妻であり続けるという姿勢が見事に表れていると思った。闘牛の衝撃的な死に様と政治状況を重ね合わせるような骨太演出もさることながら、上記で挙げたような繊細さや、他にもアラン・ドロンとロミー・シュナイダーが船の上で戯れるシーンの瑞々しさ等、本作は映画の誘惑で溢れており、アナーキスト:トロツキーの映画としてよりもむしろシネアスト:ジョセフ・ロージーの映画として見ることで記憶されるべき映画なんだろうと思う。