13.《ネタバレ》 「殺人狂時代」はチャップリンが最後まで悪党として生をまっとうした久しぶりの作品だ。オーソン・ウェルズの原案というのも面白い。
実際はチャップリン自身が実在の殺人鬼アンリ・デジレ・ランドリューやウェインライトというモデルを参考にしたのだが、ウェルズの問いかけがなかったらこの作品は生まれなかったかも知れない。
金と命を奪って逃げての繰り返し、その過程にも限界が来てやがて大騒動になっていく。
ブラックユーモアに富んだギャグ、殺しの狂気に染まった男の闇の部分。
そんな殺人鬼にも魔が差したのか、偶然出会った女性の殺しをやめてしまった。
「逮捕されて夫も家族も失ったわ」同じ犯罪者としての同情か、己の運命を予期しての考えか。
実に四つの人間になって機関車で行き来する主人公アンリ・ヴェルド。嘘の上塗りと殺人、だがそんな生活にも限界。一度ほつれた糸はどんどんと崩壊していく。完璧な筈だった殺人計画は次々と失敗しオマケに世界恐慌にヒトラーまで出てきた!
「独裁者」でもヒトラーDisり足りないのねー。デジャブ?
新聞の記事を写すあたりなんか「独裁者」そのものだ。
全てを失い、そんな時に巡り合った「再会」・・・己の運命を受け入れるヴェルドゥ。
処刑前のセリフが考えさせられる。
「One murder makes a villain; millions a hero. Numbers sanctify(一人の殺害は犯罪者を生み、百万の殺害は英雄を生む。数が(殺人を)神聖化する)」・・・奴隷廃止を訴え続けたベイルビー・ポーテューズのセリフ。
小説や戯曲に精通したオーソン・ウェルズが取り上げ、チャップリンが言い放つ。
それを殺人をテーマとしたコメディ映画で言うというのが凄い。
虐殺によって帝王になったヒトラーを初めとする多くの英雄(殺人者)たち。
それに比べたら自分の殺しなど“アマチュア”に過ぎないと言う。
現実のチャップリンもまた、劇中のヴェルドゥのように多くのものを失っていた。
戦争に反対した姿勢は「赤狩り(レッド・パージ)」に弾圧され、苦楽を共にしたスタッフの多くも戦争を通して亡くなった人間が多い。