1.<はじめに:今回はレビューというより“鑑賞体験記”に近いです>今までオリヴェイラの作品は「家路」と「クレーヴの奥方」を観てたのだけど、正直言って「撮り方はユニークだけど、どこが良いのか分かんねえ」と思ってました。だからこの作品を観る前も「何だか凄いらしい」という評判は聞いていたものの期待と不安が入り混じっていたのです。んで冒頭、母娘が遺跡を巡りながら歴史について語るくだりあたりは「ふむふむ」とか思いながら、その特徴あるカメラワークの「意味」を探ろう、とかしてたのです。ところが中盤、マルコヴィッチ演じる客船の船長が三人の女性たちと「前代未聞で異様なやり方」で語り合う場面辺りからだんだん画面に引き寄せられていって・・・この感覚、口でうまく説明するのが難しいのだけれど・・・例えば、音楽って歌詞とメロディ(主旋律)だけでなく、それぞれの楽器やリズム、ひいては音そのものが渾然一体となって「音楽」になってるじゃないですか。それと同じく映画も、台詞とストーリーや役者の演技だけでなく映像の質感とかリズムが溶け合って、んで「映画」になると思うんですよ。で、この映画は正に「映画」そのものに魅了されてく感じというか・・・何だろな、こっちが理屈をこね回して「構えてた」のをゆっくり、優しくほぐされていく感じ。こういう言い方すると何だか超常体験みたいだけど(笑)、ホントそんな感じで最後までぐいぐい引っ張られて、最後まで見せられた(魅せられた)感じ。あんまりショックなんで続けてもう一回観てしまいました。何なんだ、この映像から匂い立つ豊穣な奥深さは!この映画、一応のテーマとしては「9.11以降の世界に対するヨーロッパからの真摯な“問いかけ”」てなことだと思うのだけど、個人的には「映画」そのものについて、言葉にできない無数の“問いかけ”をされたような、何とも不思議な映画体験でした。これはもう一度オリヴェイラ作品を見直さねば。凄えよ、オリヴェイラ爺さん、二百歳まで映画を撮り続けてくれい。