8.《ネタバレ》 傑作だと思います。
テンポも良く、極力セリフを抑えて内容を伝える手法も洗練されています。
さて私が気になっているのはこの映画の白眉といえる「ハビへの詩」でして、じつはこの詩でラモンの事故の間接的な理由も、そして事故前の人生を捨ててしまった理由も、すべて解けるような気がする。
ラモンは飛び込みの際に「他の事が気になって」いたわけですが、この詩によればそれは「恋人に妊娠を告げられた」からだと思われる。そして、事故後に恋人は「結婚したい」などと言いますがそれは妊娠していたからという理由が大きい。ラモンは拒否し、彼女は1人で育てる自信もなく堕胎します(薔薇とは恋人のこと)。
…後年ラモンはこのことを悔い、「生まれなかった息子の魂」が別の赤ん坊となって生まれてきてくれることを願います。そして、ハビが生まれ、ラモンはハビを「生まれなかった息子」の生まれ変わりのように思い、そしてそう信じたかったのです。
もっというと、事故直後のラモンは「こんな体になってしまった事故の原因」であるところの「恋人の腹の中にいる胎児」を恨んでしまったのです。アレさえデキなければ。自分はこんなことには。
それがラモンの罪悪感であって、「ハビへの詩」を書かせたのです(ハビは高校生ですからラモンの子供では有り得ません)。
もうひとつ、ラモンが死ぬことに固執した理由、それは間違いなく「家族のため」です。
だからこそ、死の録画では一切家族のことを語りませんでした。28年間も介護してもらったのに、死ぬときになって感謝の一言もないのは本来の意図を隠すためです。「オレは自分の意思で勝手に死ぬんだぞ」ということにしておきたいのです。「義務」とか「権利」とか言っているのも同じことです。
彼は家族をラクにするために、死んだのです。ハビはじきに高校を出れば家を出て行く。人手が減るわけです。父親はいつボケたり寝たきりになってもおかしくない。被介護者が2人になるわけです。
2年前にラモンが死を行動に移しはじめたのはこのタイミングだったのでした。
ラモンの死は「尊厳死」というより「家族への愛」と呼ぶべきものです。そのことを、ベタベタした家族関係を見せるのでなく、うまいこと表現したと思う。
…ちなみに私は尿カテーテルと点滴を刺されて首しか動かせない状態を3日間くらい経験しましたが、あの状態は拷問としか言いようがない。