1.急速に発展する中国とその近代化の弊害を描き続けるジャ・ジャンクーのいつもの映画でありながらも、ドキュメンタリータッチの鋭い視点とドラマチックでスケールの大きい物語という相反する両者が奇跡的ともいえるぐらいに見事な共存を見せる。消えゆく街の、家々の中に密集する、もの言わぬ小物たちがそれぞれの生活を語る。そこで人は食し、眠り、生きてきたと。その証しを全て無かったことにするかのように水の中に沈めてしまう近代化という名の脅威。世界最大のダム建設が過去に何度も政治的都合で中断されたように、ロケットのようなイビツなカタチをした建物がまるで近代化の弊害の象徴のように建っている。そしてまさにロケットと化して飛んでゆく。映画にしかできない演出を躊躇なくしてみせる大胆さに感動した。ラスト付近でも綱渡りをする人影が写されたりとドキュメンタリーとファンタジーを見事に融合させる。綱渡りは、男がこれから向かう場所が命を落とすかもしれぬ危険をはらんでいることのメタファーだろう。ジャ・ジャンクーらしい繊細さと稀に見る壮大さを併せ持っているとんでもなく素晴らしい映画だと思う。