3.《ネタバレ》 テーマがよかったですね。学生時代に多くの人が抱えるであろう、ずれたルーチンで毎日があっという間に終わってしまう感覚。いつか区切りが来ると分かっているのに、時間が無限にあるんじゃないかという錯覚みたいなもの。
それにポンと焦点が当たっているところが秀逸です。無為に過ごしている学生世代に、インスピレーションを与えたいという熱意のようなものが伝わってきました。他方で、時々何十年も働いているのに周りからみても異様な生き方をしている人がいます。人間社会にいるのに他人にまるで接触せず、東京オリンピックでそこだけ時間が止まっているかのようで、自分の話は相手が聞いていようと聞いていまいとお構いなしな人たち。
そういう人たちへのメッセージであるともとれ、いろいろな年齢がターゲットになっていると感じました。彼らの体が子供ならキルドレという商品にそっくりなのでしょうか。現実の彼らが一歩を踏み出すことはないでしょうが、55歳の押井監督の自分に近い世代や少し下の世代に対するメッセージも含まれていそうな感じです。
物語はキルドレの詳細やティーチャーのこと等謎要素も入っているけれど、そこにフォーカスしないのはテーマ重視なため謎解きとかオチで味わいを帳消しにしてしまわない方法論としてアリでしょう。画像の技術的な部分では他の追随を許さないですね。ゲームのOPムービーのレベルと比べたら失礼な、明らかに一線を画すクオリティ。絵の部分との境目もイノセンスの時よりずっと自然になってます。
ヨーロッパの評論家にはこの話を絵でやる意味があるのか、と言う疑問もあるようですが、絵でやるか実写でやるかはどちらでも良いことだと思います。自国産長編アニメ映画を当たり前に大切にする日本人やアメリカ人にはむしろその疑問、そういう発想あったか的な感覚ではないかと。
全世代向けでしょうけど社会的なテーマに加え高い技術性も有り、基本的には大人向けの作品です。でも、大人なのに無関心な子供のような生き方をしている人には結局意図不明で耐えられないかもしれません。ガサガサと貧乏揺すりを続け、何度もトイレに行っているオジサンが数人いらっしゃいました 自分がすでに知っている心地よさや快感ばかりを娯楽に求めると、意外性の楽しみを見つけられないんだななどと思ったりもします。