1.映画生誕100年目の年に公開された、色々な意味で凄い映画。長い亡命生活の末故郷に帰り、今度は自身の失われた時間とバルカン半島の歴史=幻のフィルム「失われた眼<眼差し>」を辿る旅に出る映画監督A=長い遠征から故郷に帰ったオデュッセウス(木馬作戦で有名なトロイヤ戦争から凱旋し、再び旅立ち、海上での放浪などの苦難をなめつつ故郷に帰り、妻ペネロペイアと再会するギリシャ叙事詩「オデュッセイア」の主人公、ユリシーズとはオデュッセウスの英語読み)=アンゲロプロス監督という図式。作品中1人4役の<マヤ・モルゲンステルン>演じる女性達は、永遠の妻ペネロペイア=失われた時間の象徴。プロット自体を楽しもうとすると眠くなるだけで、全く面白くない。むしろ上記のような図式を頭に入れつつ、記録映画を見るように、長回しによる美しくも哀しい1シーン1シーンを楽しんだ方が良い。ちょっと笑えるのは、5年間をワンショットで見せる強引なシーン。圧巻は映画の歴史を語るかのような、冒頭のモノクロからカラーへ移るシーンと、ラストの霧の中、音だけによる惨殺シーン。戦場と化したサラエボで、幻のフィルムを保管している映写技師の老人が、ベルイマン作品常連の<エルランド・ヨセフソン>というのも泣かせる。