1.《ネタバレ》 庶民から財界の大物まで多彩な役をこなすジャン・ギャバンがボクシング・コーチとして登場、コーチの奥さんは「天井桟敷の人々」で多くの男性を魅了するガランスを演じたアルレッティ、ボクサーのアンドレ役の男優も金髪の端正な容姿なので貴公子役なんかもやっていそうな感じですが、全員が上下ジャージーのトレーナーやら下町のおかみさん役や汗まみれのボクサーなんかにぴったりはまっています。ストーリーの鍵になる手の形をした金属製のチャームですが、女性が車窓から投げたようにも見えるし、右腕にしたブレスレットからポロリと落ちたようにも見え、どちらに取るかによって女性のアンドレに対する気持ちの解釈は違ってくると思います。でもそれはどちらでもいいことなのかもしれません。アンドレがうっかり落としたチャームを一度は拾って「お守りなんだろ。大切にしろ。」と言って渡したヴィクトルがラスト・シーンで同じチャームをアンドレの手から取り上げてセーヌ河(?)に投げ捨て、エッフェル塔に向かって彼を追い立てていくところなんか、「俺たちパリっ子にはいつでも未来があるさ。」と言っているようでとても好きですし、同じ監督の「嘆きのテレーズ」の非情な内容と比較してこの作品の楽天観が数倍好きです。