1.ウエイトレス仲間である主人公の親友(香取千代子)は表情豊か。茶目っ気に満ちた身振りで枕やリンゴを放り投げ、拾った空っぽの財布を投げ捨て、部屋の中で軽やかに飛び跳ねる活発なアクションを担う。対照的な主人公(忍節子)は清楚で奥ゆかしく動作は控えめ。うつむく、振り向く、首をかしげる、とアクションは小さく慎ましい。自動車事故でベッドに横になった彼女はさらに身動きを制約されてしまうという具合だが、その中で健気に首を起こし親友たちの見舞いに応える小さな所作こそ優れて情感的なアクションとして際立つ。同時に、これらの小さな屈曲を主体とした半円的な身体運動の数々は、終盤の決意の場面で唯一用いられる彼女の自立的な表情への直線的なトラックアップの強度を一層引き立ててもいる。
●この作品では成瀬映画おなじみのモチーフともいえる交通事故が二度も登場。後期の『ひき逃げ』以上に直截的な描写であるのが興味深い。
●同じく特徴的である、スムーズな場面転換術も随所で効果を発揮。(デザートグラスからウイスキーグラスへ、手鏡から鏡台へ、花瓶の花から観葉植物へといったドラマ的な対象物同士によるつなぎの妙。ドアの多用。結婚後すぐの場面に登場する鳥かごのさりげない暗示性など。)