1.《ネタバレ》 これは拾い物。隠れた名作的位置づけにあたる作品だ。生きる希望を失い、孤独な生活を続ける二人の男女が知り合い、奇妙な交流を通じて自己再生していく物語。その”奇妙さ加減”が抜群に面白く、コミカルな小ネタもふんだんで、観る者を飽きさせない。意表を突く展開の連続で、先が読めない小気味さがある。丁寧なカメラワークで二人の繊細な内面を写しだす手法には感服する。韓流特有のオーバー・アクションや感情過多は少なく、むしろ控えめな演出で、日本人には共感しやすい。◆男はリストラ、離婚、借金苦で、人生に絶望し、橋から投身自殺を図るが、漢江の中洲の無人島に漂着する。最初は助けを求めたり、自殺を図ったりしてあがくが、いつかサバイバル術を覚え、そこに住み着くようになる。砂浜に描いたHELPがHELLOWに変わるのがおかしい。女は三年間、マンションの一室で引きこもり生活を続けている。両親とは会話もしないが、ネットでは別人になりすまし、偽りの対話で自らを慰めている。趣味は月の写真を撮ること。月に人類はおらず、完全な孤独なところに魅かれるのだ。年に二度、地上を撮ることがある。有事訓練で路上に人がいなくなるときがあるのだ。そのとき女のカメラが偶然に中洲の男を捉えた。男が孤独であると知った女は、内なる欲求に抗いきれず、ついに男との交流を図る。それが何とも不器用で、朴訥で、はがゆく、おかしく、そして微笑ましい。最初の返事が来るのに二月半もかかるし、メッセージも一行だけという慎ましさだ。だがこの交流で二人の心に変化が芽ばえ、徐々に人間らしさを取り戻していく。その過程はやわらかく、しなやかで、孤独がちな現代人に温かいメーっセージとなって伝わってくる。◆台風の日、女はネットでのなりすましがバレて、逃避先を失う。男も台風の清掃にきた職員に発見されて、島を追われる。絶望した男は自殺を決意する。それを止められるのは女だけだ。女は必死に走って男の乗ったバスを追い駆けるが追いつけない。もうだめだと諦めたとき、奇跡が起きる。漸く初対面を果たせた二人の眼から溢れでる涙。それは忌まわしい過去を流し、本来の自分を取り戻した喜びの涙だ。沖を流れるアヒルの船が映し出されて終了。この船は、男が住居としていたもので、男は”醜いアヒルの子”を自認していた。”醜いアヒルの子”との訣別という象徴性に富んだエンディングに拍手。才能のある監督です。