1.《ネタバレ》 久々に二度目の鑑賞。フィルム・ノワールの隠れた傑作だ。70分に満たない短尺で十分にハラハラドキドキの起承転結を味わわせてくれる。
物語は主人公がカフェの席で沈鬱に吐き出す回想の形で進んでいく。
恋人に会いに行くためアメリカを東から西へと大移動しようとする主人公は貧窮なためヒッチハイクという手段をとる。これが彼の運命を盛大に狂わせる元凶となる。そして運転していた車の持ち主が車中で突然死し、主人公は殺人と疑われるのを恐れて、その男になりすますという苦肉の策に出る。だが、その先でヒッチハイクで拾った謎の女がさらなる災難を呼び寄せることになる。
律義さがことごとく裏目に出る、とことん運のない男である。観ている側は自然に「そこはこうした方がいいだろ?」と思う場面で見事に(?)その逆の行動パターンを重ね、自らを窮地に追い込んでしまう展開は手に汗握るスリルに満ちている。ただ、せっかく結末で用意されたどんでん返しが、主人公のハッピーエンドに結びつくことなくアッサリ後景に退いてしまうところは、軽く説明が欲しかった。
そして何といっても、凄まじい眼力と圧力で主人公を振り回すファムファタール役、アン・サヴェージの存在を抜きにしてこの作品は語れない。サディスティックな性悪女でありながら、ひたすら闇に向かいがちな物語に妙に陽光を差し込む役目にもなっているのが彼女である。
主人公の不運を高見の見物で眺めつつも、「自分が主人公の立場だったらその時どうする?」という心理テストを突きつけているようで、80年経った今日でも色褪せない緊張感と面白さが短尺に詰め込まれている逸品といえようか。