1.《ネタバレ》 (ネタバレ厳禁映画につき、鑑賞後にお読みいただければ幸いです)劇場ポスターのメインコピーは『バイロケはもう一人の自分。必ず本人を殺す』。これは秀逸です。観終えて改めて、その味わいの深さに唸りました。サブコピーは『○○を超える、衝撃的な結末』。よく耳にするフレーズですが、こちらは酷いネタバレです。私のような盆暗はナチュラルにスルー出来ましたが、ミステリー好きならこのヒントで真相に気付けてしまうでしょう。上質なミステリーですので、興味のある方は情報をシャットアウトしてご覧になる事をお勧めします……。W○W○Wさんで『表』と『裏』バージョンを続けて放送という英断のおかげで改めて鑑賞し、その設定の秀逸さ、脚本の巧みさを再確認しました。やはりポイントは“バイロケが自分自身をバイロケと認識できない”という部分にあります。つまり、バイロケは自身をオリジナルと信じ、バイロケ被害者であると疑わないのです。加害者と被害者という関係ではなく、共に被害者が正しい認識。でも相反する生き方を選択した者同志、共存は叶わないのが道理です。本当に切ないお話でした。さて、今回『裏』を初めて拝見しましたが、単にアナザーエンディングという位置付で少々ガッカリしました。加賀美の忍への問いかけ「それであんたの結末が変わる」、あるいは高村から桐村への逆提案。後半に重大な岐路が2か所も用意されていたにも関わらず、どちらも完全無視で『表』と同じ道程を辿ります。いくら“裏切り”がミステリーの醍醐味とはいえ、これはいただけません。何をもってハッピーエンドと捉えるかは難しいところですが(其処が本作の素晴らしいところ。裏も決してハッピーエンドではありません!)、偶発的な要因に起因せず、主人公の能動的な選択で別の未来を手に入れる結末も観てみたいと思いました。それでこそ「私のことは、私にしかわからない」という鍵となる言葉が活きると思うのですが。監督の画づくりには少々趣味に合わない部分(例えば加納が忍を殴打するシーンの凡庸さ)もありますが、これだけ手の込んだミステリーを頂戴出来れば十分満足です。同じモチーフを有する黒沢清監督の『ドッペルゲンガー』(こちらも傑作!)と見比べてみるのも一興かと。