1.いわゆる「ロス暴動」を描いた作品にはスパイク・リー監督の「ドゥ・ザ・ライトシング」がありますが、どちらかというと当時目新しかったヒップ・ホップを映画に取り入れる事に主眼が置かれ、黒人コミュニティと韓国人コミュニティとの対立は描かれるものの「ロス暴動」自体はかなり象徴的な描き方でした。
それとは異なり、本作では暴動の発端から収束までが時系列に描かれており、事件の全貌が理解しやすいです。
冒頭、無抵抗の黒人少女を韓国人店主が背後から射殺した「ラターシャ・ハーリンズ事件」はウィキペディア等で見て知っていましたが、数ある黒人差別事件の一つと思っていたらこれが初っ端の元凶だったんですね。韓国人店主に買収された裁判官による実質的な無罪判決(罰金+奉仕活動)が判例となってしまい、その直後に起こった「ロドニー・キング事件」(白人警官による黒人容疑者暴行致死)でも、前の事件の裁判官の罷免運動が起こる中、結局は同じような流れで無罪判決。そこに至って黒人コミュニティが一気に暴発したという感じ。
発端となった「ラターシャ・ハーリンズ事件」や、その後の「コリアン・タウン焼打ち」は当時の日本のマスコミが全く報道しなかった為、予備知識の無い人が観ると事件がかなり違う様相を帯びている事に驚くかもしれません。
本作は身寄りの無い子供を引き取る黒人ホストマザーの大家族と、その隣人の奇妙な白人によるドラマ。それに絡む形で実際の映像(監視ビデオ、ニュース映像、裁判映像、暴動の記録映像など)がかなりの頻度で挿入され、観客があたかも事態の推移を一緒に見守るような形式となってます。
「私はその人物が将来良い事をするか悪い事をするか見極める眼を持っている(だから証拠などはどうでもいいのだ)」と言い放つラターシャ・ハーリンズ事件担当の白人女性裁判官(実際のニュースのインタビュー映像)は凄まじい。
隣人のヤモメ男を演じるダニエル・グレイク好演。子供の前でもケツ丸出しの素っ裸でウロウロ、黒人デモ騒ぎに「やかましい!」と窓からショットガンをぶっ放し、テレビの裁判中継見てると「そんなもの消せ!」と家具を投げつけてくるような危ない奴ですが、根が良いので最後には主人公たちと行動を共にして活躍。キャラが何となく007シリーズに共通する感じ。
白人のみならず黒人も相当ヒドイ奴が出てくる。決して一方を美化する事無く、白人も黒人も悪い奴は悪い、良い奴は良いという描き方が良。
ラストは「え、これで終わり?」って感じがちょっと残念でした。
死んだ友人の遺志を継いで件の韓国人店主を殺しに行くとか、逆に暴動でバラバラになったホストマザーと再開し恩讐を超えて癒されるとか・・どちらでもいいけど、せっかくここまでドラマを作り上げたのだから、あとひと展開かふた展開してほしかった感じ。
あと黒人があそこまでゴキブリを忌み嫌うとは初めて知りました。暴動・略奪に加わりに行った年長の子らを連れ戻さなきゃいけない、一方でお腹を空かせて泣き叫ぶ年少の子らの食事を作らなきゃいけない、とテンパるホストマザーの前にゴキブリが現れてパニックに陥り、駆け付けたグレイクが彼女を必死になだめるというシーン。「ゴキブリが出ると大騒ぎしたり、カブトムシ飼って喜んだり、虫の音で季節を感じたり、たかが昆虫に一喜一憂するのは日本人だけ」という話をよく聞きますが、ゴキブリについてはどこの国の人も一緒やん。