3.《ネタバレ》 「絞死刑」・・・タイトルを聞いただけで?と思った。どうやら“くびりころす”国(ひとびと) を描いた作品らしい。
実際に起きた「小松川高校事件」をモデルにした映画。
冒頭はドキュメンタリー風のタッチで、一人の人間が死刑執行される瞬間を描いていく。この頃から死刑制度が必要なのか不必要なのかが問われていたのか。
死刑を執行する人間は、これから罪を犯した“ケジメ”として殺される人間を見届けなければならない。首に喰い込んだ麻縄の跡も・・・。
人間が完全に死ぬまでをストップウォッチで計ったり、必死に諭して、飯まで食わせるんだぜ?酷い話だ。
大昔は磔とか、首を斬られた罪人をそのまま晒し者にして民衆の前で見せたそうだが、今の世の中そんな事はしない。殺される人間にも“人権”て奴が発生するからだろうか。
ところが、そこから事態は急変する。
一度しくじった刑を“殺り直す”って発想がまず思い付かねえよ。
記憶を失えば絞首刑(縊り殺す)が出来ない。
それでこれから殺そうとする人間の記憶を取り戻させようとする様子が何処かユーモラス・・・けど、ゾッとする。
法を破り人殺しもいとわぬ者、法を守って人を殺そうとする者・・・一体どっちが正しいんだろうね。劇中の人間のように、本当に笑いながら人を殺す相談をする奴もいるだろうよ。
つうか教育部長がウザイ。
人一人殺すのに愛情だの何だのと歪んでいるとしか思えない。
もし殺される奴が日本人の“K”で、殺す側が朝鮮の“R”の人々だったら・・・差別とかそういうものが立場によってがらりとひっくり返されたら・・・そう思うと怖くてしょうがない。ステレオタイプな差別描写が、より一層そういう事を考えさせる。
更に日本の男尊女卑の問題や宗教問題にまで踏み込んでしまう大島渚の大胆さ。
映画というジャンルで戦い続けた男のメッセージが刻まれた作品の一だった。
ラストシーンで検事以外の人間が見た“女”の姿。“R”は“R”である事を受け入れる・・・。
後味は悪いが、「儀式」と共に一度は見ておきたい作品だ。
この映画が嘲笑うものは、死刑制度、そして人間そのものに対する矛盾なんだろうね。多分。
俺は「少年」や「戦場のメリークリスマス」の方が好きだが、この映画は大島渚にしか撮れない最高傑作だ。