1.《ネタバレ》 Netflixオリジナル映画のなかでは結構フィーチャーされてたとは思うが、地味なタイトルで手が伸びなかった。たまたま見た予告編(というか冒頭の船のシーン)が面白かったので鑑賞。これが大正解で、面白かった。とにかく、何か大変なことが起きている、という不穏な空気の作り方がとてもうまい。普通、この不穏なまま3分の1くらい引っ張って、真相が明らかになり、そしてラストバトル、みたいな展開が予想されるのだけれど、なんとこの映画はずっと不穏で何が起きているかわからないまま。それでも、起きる事件の一つ一つが強烈なビジュアルで、冒頭の船の座礁から、鹿の群れ、飛行機の墜落、赤いビラ捲き、そしてお兄ちゃんのアレまで、どれも見せ方が本当にうまい。そのうえ、誰一人好きになれそうにない登場人物たちなのに、だんだん1人1人のキャラが人間臭く見えてくるのが不思議。ジュリア・ロバーツがこんなにイヤ〜な中年女性を演じるのも驚きだし、マハーシャラ・アリの慇懃無礼さ、イーサン・ホークのいろいろ役に立たない文系親父など、俳優のキャラをうまく活かしている。そして、とっても今どきな家主親子の娘さんは、自分が最も苦手なタイプ(しかも、知り合いにこういうタイプがいて本当に苦手なので、話し方とかふるまいとかがいちいちリアル)なのだけれど、最後の鹿との対峙シーンではなんだかとっても可愛く見えてしまう。
決して明示されないけれど、社会的なメッセージも明らかだろう。混乱し、真相がわからないまま、自滅していくアメリカの姿。だけど、アメリカは、ずっとずっと何年も中南米でアジアで中東で、そして今(2024年)にはパレスチナで、同じことをやってきたのだ。独裁者やテロリストにもお金や武器を流し、人びとの不信を煽り、分断を作り出し、殺し合いをさせてきた。しかし、この映画では、誰か黒幕(悪の陰謀団?)を置いてネタばらしをやるのではなく、結局何が起きているのかわからないまま終わっていくのが何より素晴らしい。そして、作風的にハッピーエンドはないと思っていたのに、まさかの「ほっこり」エンド。参りました。
独特な作風が気になったので調べたら、サム・エスメイル監督は『Mr. ロボット』のクリエイターだった人か! またまた楽しみな映画監督が1人増えました。