17.原作者と映像作品製作者の間のわだかまりで起こってしまったあまりに不幸な事件が毎日の報道を賑わせていますが、この「メリー・ポピンズ」もウォルトディズニーと原作者の間で葛藤があった作品として知られていて、「ウォルトディズニーの約束」という映画にもなっています。
トラバース女史の原作は 英国児童文学伝統のエブリデイマジックもの、日本で言えばドラえもんみたいなものです。
それに対して映画化されたこの作品はいかにもアメリカ的な家族再生の物語へと変えられています。
メリー・ポピンズが初めて訪れた頃のバンクス家は、
子供達のしつけはナニーに任せきり。
父親は仕事一筋。
母親は女性解放運動に夢中
というバラバラな家庭。
そこへメリー・ポピンズという異物が現れることにより最後には家族の結束が強まるという物語、いかにも分かりやすいアメリカンストーリーに変えられています。
今見ても面白いというのは、こうした普遍的な物語なのでということもありますが、原作が舞台としたであろう明治大正時代頃の女性啓蒙運動、映画が制作された1960年代70年代頃のウーマンリブ運動、そして現在のフェミニズムの動向と 見事にシンクロしていることです。
こうしたことが原作を映像化するということ、映像化された作品を時間を隔てた現在見るということの醍醐味であると言えるかもしれません。
内容的には短いエピソードの積み重ねで、芸達者な演者たちを揃えて愉快な寄席芸を見ているようです。
大らかなアメリカンジョークとブラックな英国ジョークが交互に 飛び出してくるところはまさにハイブリッド映画と言えそう。
この映画のひとつの売り物である実写とアニメの融合はディズニーが極めて初期のアリスコメディからやっているものなので技術的にはさすがに練れて安心して見られますが、ディズニーのあまり好きでない絵柄の時代の絵なのでちょっとそれは残念でした。
歌曲も数多くどれも親しみやすい名曲なのでミュージカル好きの人なら必ず気に入ると思います。
とても楽しい映画です。
原作にはまた原作の楽しさがありますのでどちらも別々に楽しんでみるといいでしょう。