1.《ネタバレ》 短編「ピロスマニのアラベスク」といった作品が強烈な印象を残すパラジャーノフだが、パラジャーノフの最高傑作を1つあげるとなるとやはりこの作品になるだろう。
「ざくろの色」に比べるとややインパクトに欠けるかも知れないが、この作品は二人の男女の悲しき運命の果てを強烈なビジュアルで綴る映画だ。
劇中で度々画面をよぎる火の馬は、流される血のように紅く燃えている。
冒頭の雪が降り積もった森で、少女のようにあどけない男の子の顔が映される。
その幼い子供の父親に、無残にも倒木が襲い掛かる。木が上から倒れてくるカットが強烈。
死者の魂を高らかに送り出す奏者たちの音楽。死者を奉る場で新たな死者が出てしまう悲劇。
ウクライナのカルパチア山地、二つの氏族は何世代にも渡り争いが耐えなかった。子供たちも今は良き友人であったり愛し合っているが、大人になればやがて殺しあうような日がくるかも知れないのだ。葬式での悲劇は、そうやって何度も繰り返されてきた悲劇の一つに過ぎない。
女の裸体を徹底的に見せない拘りも良い。裸で戯れる少年と少女。
シャツを着たら次の瞬間には青年に成長しているイワンコ。マリチカもまた、立派な大人の女性へと姿を変えていた。
雨の中濡れる二人。しかし民謡がうるせえ。ポンとお腹に触る婆さんの心意気。
まるで狩人たちが女の命を狙うように迫るシーン
崖の上での悲劇。マリチカは断崖の子羊を救おうとして・・・。
揺れながら迫るカメラが、サスペンスを異常に盛り上げる。
木の間から女の表情を追うカメラがヤケにサスペンスフルだ。
終始異様なテンションが、亡き女性を忘れられない男の狂気を物語る。
新たな女性と首にかける梯子は、まるで首枷のよう。
女を忘れられない男は、いつも何処か余所余所しい。前の女に比べたら、他の女はみんな羊みたいなものか。そんなもん誰だって他の男に逃げたくもなるわ。
祈る新妻の姿は、裸で他の男を誘っている風にしか見えない。
窓から覗く子供たちの笑みが不気味に見える。
イワンコは、父親と同じ運命を歩んでしまう。
グルグルと人々の顔を映し狂騒を演出。葬式は盛大にかつ楽しく送られる。死体の前で次のカップルが愛し合い始めるんだもの。
葬式に始まり葬式に終わる。
さまよう魂は、真っ赤な木々の向こうで愛しき人と再会するのであった。