2.《ネタバレ》 アントニオーニの危うい哲学(鋭い視点と足りない探求)がフィルムに美しい幾何学模様を描いた彼の最高傑作。これ以降、彼は観念に引きづられる格好で完成度の低い(それでも大いに魅力的な)作品達を残していくことになる。無機物と有機体の対等性、存在と非存在の境界の消失といった彼の根底を流れる思想と、彼の愛をめぐる普遍体験が最良の形で映画の枠内に収められた本作は、映画史における到達点の一つといえる。特に、平面と直線により構成された都市空間をジャンヌ・モローが放浪する前半部分は、全てのショットが完璧と言いたくなるほどだ。物質も生命も同じ法則によって貫かれているのだ、と感じさせてくれる映像空間の構築により、愛の普遍劇に観点の多様性と豊穣な味わいを与えている。後半、張り詰めたセンスによって支えられていた映像がやや緩みだすが、至高のラストシークエンスが所々にあいた空隙を埋めるピースとなり、この作品に傑出した完成度を纏わせている。ゴルフ場に愛の枯れた夫婦が二人。遠景では木立が水墨画のようにたゆたう。愛を含む一切の感情がこの広大な空白に飲み込まれ色褪せていく。起死回生を狙う夫の悪あがきだけが画面の片隅でうごめいている。モローとマストロヤンニの演技、ガスリーニの演奏も素晴らしい。同じ題材でこの映画を超えることは不可能とさえ思えてしまう、アントニオーニの内的世界が見事に結実した大傑作。