12.《ネタバレ》 映像表現に秀でた傑作。画に象徴性をもたせ、映像で語る。芸術の領域だ。主題は、戦争の犠牲となる弱い子供。無理心中を強いられたゲッペルスの子供達の実写映像を出すことでそれを補強している。少年の思い出で始まり、思い出で終る循環構造。冒頭、どこまでの健やかに延びる若杉を俯瞰でとらえ、疾走する少年を遮断する黒く歪んた老木を仰視でとらえて終る。少年の顔をすっぽり囲む若杉の蜘蛛の巣が少年の未来を暗示する。戦争という蜘蛛の巣に捕まった少年。戦争は彼から家族を奪い、子供らしい心を剥ぎ取った。憎悪に燃え、復讐の鬼と化す。最後に登場する老木は、奇形化した少年の心の投影でもあるだろう。自らの歪んで怪物化した心に殺されたともいえる。少年を変貌させたのは戦争で、戦争の邪悪さ、悲惨さが浮き彫りになる。思い出の場面は、半裸の少年、夕立を浴びる兄妹、微笑む母、収穫の林檎とそれを食む馬と、あくまで甘美でまさにエデンの園。兄妹はアダムとイブだ。生命の象徴としての水の映像が鮮烈だ。母が運ぶバケツの水、少年が屈んで飲む水、眠る少年の指に滴る雨漏り、昼でも星を映す井戸水、林檎を運ぶトラックに降る夕立、浜辺の陽光の綺羅を放つ水面、地下壕の中でもしばしば水滴の音が響く。戦争場面では雨は降らず、渡川後の大尉は雨さえ降れば少年の足跡が消えるのにと悔しがる。代わりに初雪が降り、最後の捕虜収容所では焼却灰が降る。蓄音機を修理した古参兵はレコードを聴けずに死に、マーシャ軍医をめぐる大尉と中尉の恋の鞘当ても虚しく終り、少年も落命する。戦争は何も生まず、物質だけでなく、心も破壊する。傾いた十字架、燃える木、剥げた聖画像、壁の落書き等がそれを象徴する。カッコー、キツツキの声、銃弾、照明弾の音が効果的に使われる。特筆すべきは、偶然を装って人物を活写する演出法。少年の尋問中にランプが爆ぜて中尉がそちらを向く、女軍医が机に触るとメモが落ちる、白樺林で大尉と会話中の女軍医が突然蜘蛛を振り払う、中尉が塹壕でよろめき大尉に笑われる、大尉が小舟に乗ろうとして尻餅をつく、少年ら三人が渡川中に木が倒れる、レコードをかけた大尉が振り向くと顔にコードが当りよける、捕虜収容所で置いた少年のファイルが階下に落ちる。観る者に、あたかもその場にいる居るようなリアリティを与える効果がある。女軍医が浮いているのが残念だが、宙ぶらりでキスされる場面は印象的。 【よしのぶ】さん [DVD(字幕)] 9点(2013-09-18 21:10:03) |
11.《ネタバレ》 現実のシーンと思い出の回想シーン(もしくは夢想)におけるイワンの表情のあまりのギャップにグッと来る。戦争がなければ、回想シーンのようなもう一つの未来もあったはず。戦争が少年の人生を捻じ曲げてしまったことが、多くを語らずとも痛いほど伝わってくる。イワン役の少年の演技の素晴らしさ、タルコフスキー監督の映像の素晴らしさ、全編の切なく物悲しい雰囲気がとても印象的です。 【こまごま】さん [ビデオ(字幕)] 9点(2007-02-02 18:54:19) |
10.《ネタバレ》 夢から目覚めた少年は、小屋の2階に居て、起き上がって、梯子をつたって1階へ降りる、その時、カメラは俯角で捉えています。これが伏線になって、終盤のドイツ軍基地(?)の2階から1階へ落ちた処刑リスト・ファイルをカメラが俯角で捉えています。その後のラストシーンも含めて、一貫して画面が語っている映画ですね。 【氏木】さん [DVD(字幕)] 9点(2006-12-27 12:19:39) |
9.《ネタバレ》 『惑星ソラリス』を観たとき水面の映像の美しさにやられた。タルコフスキーの映画の水の描写はどれも美しいが『惑星ソラリス』は格別に美しい。特別な撮影方法があるんだろうが、それは色に関連したものだと勝手に思っていました。しかしこの作品『僕の村は戦場だった』はモノクロなのにソラリスに匹敵するぐらい水の映像が美しい。神々しいと言ったらいいのか。そして作中に元気な水と死んだように動かない水が出てきます。戦争前と戦争中の対比をイワン少年の表情と水の描写で現す。壮絶な戦闘シーンを描かなくても、この対比がそれ以上の効果をもって戦争の恐怖と悲劇を描き出しています。戦争は終わります。映し出されるのはドイツ将校の幼い子供たちの死骸とイワン少年の写真。大人たちがしでかした戦争で亡くしたものの大きさを静かに、そして痛烈に描いています。 【R&A】さん 9点(2005-02-07 13:32:33) (良:3票) |
8.色彩に溢れ、光に溢れ、同時にそれを全て覆うほどの、絶対的な影と闇が支配していた。圧倒的に詩的でリリカル。その映像はとても饒舌多弁で、同時に黙然としている。降り注ぐ光を侵食する、絶対的な闇。これを30歳で撮ったタルコフスキーの才能には驚嘆。 【ひのと】さん 9点(2004-08-14 14:07:52) |
7.イワンの演技に震えがきました。特に、彼の眼は、暗く、冷たく、痛いほどの輝きを持っていますね。頬のコケ具合や痩せた体がその眼を際立たせていて、存在感が画面から直に伝わってきます。スクリーンいっぱいに顔アップを持ってきても、決して負けないだけの力がその表情にあります。映画の主役をこの年齢で完全にはっているということに、脱帽するよりほかありません。終始後方に光る信号弾。銃声。河という境界を目の前に置くことで、緊張感を最大までに高めているところなど、その設定の見事さにも驚かされます。戦争映画としては、どこに出しても文句のでないほどの秀作だと思われます。 【fero】さん 9点(2003-12-27 23:44:17) |
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6.イワンの幸福だった過去の表情と現在の復讐に燃える表情との対比が全てを物語っている。また、水の使い分けがすばらしい。幸せを祝福する意味で水を使う一方、ドイツとロシアを隔てる川は緊張感を持っていて、その後の不幸を予感させている。この映画を観て、戦争の残虐さを感じることはもちろん、さらに本質的な時間の厳しさというものがヒシヒシと伝わっってくる秀作である。 【たましろ】さん 9点(2003-11-21 22:39:47) (良:1票) |
5.水、火、風、土(草木)という、いかにもタルコフスキーらしいい「物質的想像力」が、この長篇処女作ではやくも全開。物語はいかにも当時のソ連風教条主義的プロパガンダなんだけど(ナチスに母を殺された少年と、赤軍兵士の友情。ああ、ナチス憎し、ソビエト赤軍万歳!…)、そういうストーリーとは裏腹に、タルコフスキーが本当に撮りたいものをしか撮らないという決意が画面から伝わってくる。よくぞやったと思うと同時に、これじゃ当局からにらまれるのも無理はないよなあ…と。とにかく、まだ随分とナイーヴでみずみずしいこの天才の、愛すべき1本。 【やましんの巻】さん 9点(2003-09-25 13:45:01) |
4.《ネタバレ》 最後の方に出てくる写真は、痛ましすぎて正視できません。他の場面は(白黒なのに)色がついているような感覚で観てましたが、あの写真はくっきりと白黒で、一瞬映画であることを忘れてしまうようなインパクトがありました。 【そうしょくみ】さん 9点(2003-08-28 01:12:13) |
3.タルコフスキーの長編第一作。彼の作品にしては珍しく、子供を通じて戦争の悲惨さをストレートに訴えている。後の傑作に見られる映像美はすでに確立されている。タルコフスキー作品中、一番取っつきやすいかもしれない。 【ゆたKING】さん 9点(2003-02-09 10:18:40) |
2.痛ましい。すごくかわいそう。モノクロだが情景描写が美しい。夢想シーンと戦場の現実のコントラストがたまらないというかグサッと胸に突き刺さる。 【Haley】さん 9点(2002-03-17 10:53:47) |
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