1.映画とは基本的に楽しむために作られているのであって、限界を超えた恐ろしさを追求した昨今のホラーにはよほどのマゾヒストでなければ楽しめないだろうという感想を持つ私にとっては、これは楽しめるギリギリのところを実に上手く突いて来たほどほど感が非常に嬉しい作品。最近のホラーに馴れた世代には手ぬるいと感じられるのかも知れないし、確かに正視できないほどの強烈さはない。あるのは由緒正しい極上のホラームーヴィー、ただし近未来的とさえ言える現代的なアメリカ建築としての精神病棟を持って来たところで不思議に今っぽさが出た。シャープな映像、ややSFチックな舞台設定が、シンメトリーを多用することによって絶妙のクラシック感覚を醸し出す、このバランスは古き良き時代のホラームーヴィーを研究し尽くしたもの。随所にちりばめられたお約束としてのヒッチコックへのオマージュも暑苦しいほどではなく、ファンならニヤリ、とさせられる品の良さ。全てにおいて非常にバランスが良く、総合点の高い作品であると思う。ハル・ベリーとペネロペ・クルズの競演はまさにせめぎあいの様を呈し、敢えてB級の仕立てにはなっているものの安っぽさは微塵も感じられない。一流のスタッフ、キャストが真剣に丁寧に作った、いわゆるB級ホラーとは完全に一線を画する作品。しかしそれにしてもペネロペ・クルズって英語上手くならないですね。はっきり言って、工藤夕貴の方がずっと上手いです。演技が出来ることは実感できたが、あれだけの演技センスがありながらあれだけ英語が上達しないのってある意味ひとつの才能だと思う。