2.《ネタバレ》 ヒッチコック作品の中でも、舞台と登場人物の設定に「暗さ」という点で十分な念の入ったサイコ・スリラーとして随一といえる。
若き富豪の再婚相手に見初められた、都会的な美貌ながら垢抜けない青臭さの残る主人公の「私」。彼女は目を見張る大邸宅で夫と暮らすことになるが、夫の亡き前妻の底知れぬ威圧感をたたえた影に悩まされる。その亡妻レベッカの影を増幅して「私」を恐怖の谷に叩き込む、亡妻に忠実だった筆頭女中の凍てつくような冷たい圧迫感が凄まじい。
そんなウワバミと対峙していくなかで「私」は情緒不安定な夫を支える強い「妻」へと成長していくのである。
天下のヒッチコックだけに、序盤で思わぬ玉の輿に乗った「私」の可憐な笑顔を見ても、「きっとこの先に大なり小なり不幸が待ってるだろうな」と予測させる、ある種の倒錯感がまたたまらない。
前妻への未練を断ち切れない夫のマキシムには、夫婦としての愛情というよりは出来過ぎて持て余し気味だった妻へのコンプレックスが見え隠れし、それが後半の主題となる「妻殺し疑惑」の伏線となっているように思える。そこにはまた英国上流社会ならではの家父長制的な家族関係のあり方もうかがえて、本当にこの作品は奥が深い。
弱冠22歳で、レベッカの幻影に翻弄される痛々しさと、それを振り払うようにマキシムへの愛を貫こうとする一途さを鼻につくことのない適度なエネルギーで表現してみせたジョーン・フォンティンは天晴れではないか。
そして、予想だにしなかった壮絶なラスト。炎に包まれる屋敷に籠るレベッカと筆頭女中の戦慄溢れる怨念にとてつもない鳥肌が立つ。
これからも何度も観て、そこにある恐るべき魔窟に陥る楽しさを味わいたいと思わせる逸品だ。