1.《ネタバレ》 主人公伊野治、その場に溶け込んでいるが、何を考えているか良く分からない。
中心人物だけど、どこか得体が知れない。
笑福亭鶴瓶さんのふわふわとした持ち味を生かし、そこに西川監督をはじめ芸達者な脇役陣の演技もあいまって、今まで見た事の無い人物を作りだしたと思います。
これだけ印象的なお話しなのに、主人公がぼやけているって、凄いことだと思いませんか?
名優の方をあえて使わず、鶴瓶さんにお願いしたのは大正解だと思いました。
そして、私は(看護士ではありませんが)大竹看護士のような仕事をしているので、余貴美子さんの上手さには舌を巻きました。
良くも悪くもすべてを飲み込んで、ドクターと診療所を回していく。
手際のよさとベテランの雰囲気がこんなに出せるなんて、余さんの演技に敬意を表します。
香川さんの製薬会社の営業さんも実に上手い。
私の知っている営業さんと、雰囲気そっくりなのですもの。
それから、松重豊さんの演じる波多野巡査部長。
ここまで言わなくとも良いのにと思えるほどの、ヒリヒリしたセリフ。
西川監督の突き詰めて、ここまでもさらに突き詰める気持ちが、この役で表されているなと思いました。
実に痛い、いたたまれない、空気がよどんで緊張している。
キム・ギドク監督は針で刺され痛いが、西川監督は「言葉」と「気持ち」が痛い、突き刺さる。
突き刺されると分かっていても、真実を教えてもらえるその深さは、私にとってはかけがえの無いものです。
私は明日からまた仕事ですが、この作品を観たことによって自分の職場での立ち居地について、別の見方が出来たような気がします。
何となく「ある」感覚について、今まではなにかもやもやと分からなかったこと。
それがある時、言葉によって理解でき整理出来た時、私はちょっと前に出られた気がするのです。
この作品によって気づかされました。
どうもありがとうございます。
そして八千草薫さんの存在は救いです。
大事な大事なもの。
聖母マリアのようなお姿に心が洗われました。