1.《ネタバレ》 原作3回読了。劇場鑑賞4回。幸運なことに貴重な舞台も観劇させていただきました。その上で、映画版『幕が上がる』について考えてみます。夏菜子の横顔が印象的な劇場ポスターのイメージカラーは青です。文字通り青春の“青”であり、澄み渡る空の“青”でもあります。いや、あえて国立競技場の空の色と言いましょうか。「私たちは、舞台の上でならどこまでも行ける」本作を代表するキャッチコピーは、希望に溢れた、堂々たる青春宣言。でも、それ以上に重要なのがその後に続く言葉でした。「でも、どこにも辿り付けない」漠然とした不安が、絶望としてかたちを成した時、さおりは自らの立ち位置を悟ったのだと思います。いつまでも子供ではいられない。そして道標は、吉岡先生は、もう居ない。希望と絶望、その狭間で彼女たちが出した答えに、本作が伝えたいメッセージがありました。だからこそ、今、この瞬間を大切にしよう。目の前の課題に全力で取り組もう。それが宇宙の果てまで続く、私たちが進む道。これは、ももクロの生き様にも重ね合わせる事が出来ます。紅白出場も、国立競技場ライブも、目標だったけれど通過点。彼女らが目指すのは果て無き“笑顔の天下”です。徹底してシンクロする富士ヶ丘高校演劇部の生徒たちと、アイドル・ももクロ。これがアイドル映画最大の強みと知りました。劇中のキャラと、実在するアイドルグループのイメージが共鳴し合い、物語に深みを与えます。『Chai Maxx ZERO』『行く春来る春』『Link Link』『走れ! -Z ver.-』そして主題歌『青春賦』。劇中使用されたももクロの楽曲には、その全てに思いが込められていました。アイドル映画というジャンルを正直ナメていた自分が恥ずかしいです。極めて高度なエンターテイメントで間違いありません。映画版の結末は原作ファンを裏切り、県大会上演直後に設定されています。読点(、)は打っても、句点(。)は打たない。それがももクロ。そしてアイドル映画の美しさです。でも物語としては消化不良でしょうか。いえいえ、ご心配なく。「勝てる気しかしない」「楽しみ過ぎる」彼女らの力強い言葉と自信に満ちた表情は、これまでの地道な稽古と積み重ねてきた努力の証明。コンクールの行く末を十分に物語っています。みなまで語らぬ、映画の流儀でしょう。優れた原作と脚本、そして演者の個性を熟知した監督の手腕が結集された至高のアイドル映画『幕が上がる』。この映画を観て涙が出るのは、私たちが経験してきた青春の真実が其処に在るからです。小さな思い込みや勘違いの結晶が、多分『夢』と呼ばれるもの。それを丹念に重ねていく過程が青春であり、かけがえのない人生に違いないと思うのです。初めは単なる友達の付添の、平凡な少女が“その気になって”舞台演出家を目指すなんて、嘘から出た実(まこと)もいいところ。でも、これこそが人生の醍醐味です。素晴らしき人生讃歌。なんて素敵な映画なのでしょう。この映画に携わった全ての人に、そしてももクロファン(モノノフ)という立場でこの映画に出会えた幸運に、心から感謝します。 2018年1月15日、有安杏果さんのももクロからの卒業が発表されました。ファンとしてはまだ、現実を受け止めきれませんが、今言えるのは「8年間お疲れ様でした」。“奇跡の5人”杏果さん、ももクロにいてくれて本当にありがとうございました。幸せな時間でした。