3.この物語の主人公は米国では一般的なサラリーマン像なのかわかりませんが、彼の境遇を日本に当てはめると非常にしっくりきます。
ひとつの会社に定年まで勤め上げ、その間にささやかな家庭を築き、会社員生活最後の日を静かに終える。
送別会では後任の若手に持ち上げられて「退職後もいつでもおいでください」と言われ、真に受けて訪ねてみれば「何の御用ですか?」と言われてしまう。ゴミ捨て場には彼の書類がうち捨てられ、もはや会社には彼が存在していたことさえ忘れ去られたよう。
家に帰れば所在なく、年老いた妻にも長年積もり積もった小さな不満が一杯、結婚を控えた娘のフィアンセは標準以下の男で気にくわないが、彼の意見など娘は気にとめるでもない。
孤独な男、ウォーレン。自分の人生は何だったのだろう・・・。
この状況、日本のサラリーマンでも共感する人が多いのではないでしょうか。
米国の映画でこんな描写が描かれているというのは新鮮でした。
そんなことで、この映画は劇場では見逃したものの何度もDVDで観ているのですが、今回BSハイビジョンで放送されたので改めて観てみると、ニコルソンの徹底した役作り、歩き方、しゃべり方、仕草、ちょっとした表情まで、非常に計算され尽くされ、表現されていることにあらためて気付きました。
一番の発見は、妻を亡くし、彼女の浮気の手紙を発見して自暴自棄になるウォーレンが生前の妻の言いつけを初めて破ってトイレで小水をまき散らすシーン。当初は単なる復讐心からの行動だと思っていたのですが、ハイビジョンで観ると、彼の目に涙が光っているのがはっきり見えました。唸りました。そしてウォーレンの心情を察して切なくなりました。
今はこうやって分析的に観ていますが、最初はもうニコルソンが真面目な老紳士ウォーレンにしか見えませんでした。あれだけ毒のある役所が多い俳優なのに、それを一切消し去って役になりきっている。
アレキサンダー・ペインがニコルソンを主役に抜擢したのは、やはり彼の俳優としての素質を知っていたからなのでしょう。勿論向こうではニコルソンの実力は周知のことなのでしょうが。。。
今までジャック・ニコルソンという俳優は余り好きではありませんでしたが、本作を見て彼の俳優としての実力の高さを思い知らされました。