2.マイケル・ムーアという人はドキュメンタリー作家というより寧ろ、既成の素材を編集して独自の解釈を示すコラージュ的手法(戦場の悲惨な現実の後に政治家のコメントを挿入したりするのが良い例)、あるいはヒップホップにおけるサンプリングに良く似た手法に秀でた作家だと思う。この作品で扱われている映像は、確かに「事実」の断片ではあるが、あくまでムーアの「解釈」が介在しており、全体的な「事実」とは言えない。例えば同様の手法を用いて(あまり良い喩えではないが)「夜の渋谷をたむろする女子高校生はほとんどが売春している」とか「北朝鮮は喜びと幸せに満ちた、素晴らしい国だ」というような「ドキュメンタリー」も(理屈の上では)作ろうと思えば作れる。だからこの作品で提示される「事実」とマイケル・ムーアの「解釈」を鵜呑みにして「アメリカひでー!ファックブッシュ!」というのはあまりに安易で危険だ、と僕も思う。
駄菓子華氏!そういう点を差っ引いてこの作品を観ても、その「事実の断片」に現れているあまりにグロテスクな現実―イラク復興を完全に「ビジネス」と捉えている企業家の発言や、「ムーアの強引なこじつけ」というには余りにもキナ臭い、ブッシュ一族とサウジ王家のつながり等々―に衝撃を受けずにはおれない。僕は日本で出版されているマイケル・ムーアの著書は全て読んでいるし、その中で書かれている事も映画に数多く登場したが、やはり文章で読むのと映像を観るのとでは、感情に訴えかけるインパクトが全く違う。
また本作はブッシュ叩きの作品というよりも、寧ろ非常にエモーショナルで即効性のある反戦映画として秀でていると思う。被害にあった一般イラク人の悲痛な叫び、米兵の率直な物言い、また彼らの感情が次第に壊れていく過程は、どんな軍事評論家の論説よりも戦争の悲惨さを物語っている。ニール・ヤングのエンディングテーマも非常に効果的で、例えばボブ・マーリィの「立ち上がれ、自らの権利の為に。闘いを投げ出すな」というメッセージが聴く者を高揚させ、奮い立たせるのと同様、観る者の心を強く揺さぶる。その結果、(アメリカ国民なら)ブッシュ以外に投票するか、あるいはもっと積極的に反ブッシュキャンペーンや反戦運動に関わるか、事実をより知るべく様々な本を読むか、また「果たして自分には何ができるのか」と考えるか。それはあくまで各々の観客に委ねられているのだと思う。