1.広野を行くような「サンライズ」、沃野に浸るような「最後の人」の映像表現に触れた者としましては、もはやムルナウは信仰の対象として奉る存在として生きていることをこの「ファウスト」をもってまたまた再確認するのみなのです。ドンドコ飛び出す視覚効果には圧倒されますが、そういった魅せる技術をしっかり支えているのは、構図であり光でありセットの造形美であり出演陣の表現力であり衣装でありメイクであります。この映画は頭のてっぺんから尻尾の先までアンコが詰まったタイ焼きのような豊満さ、アメ細工のような繊細さ、とろけるようなクレープの芳醇さ、それらが始まった瞬間から終わる瞬間まで一時も減じられることなく包み込んでいるのです。川や滝、山や森のミニチュア、宮殿の祝宴シーン、メフィストのつり上がった眉毛、カミルラ・ホルンの麗しき肢体、ラストの雲間の太陽の輝き・・・、この映画には魂を売ってしまう価値があるのです。まだまだ映画が見えていない自分に自戒と自省を込めて。