1.《ネタバレ》 ナンセンスで可愛くてちょっと怖くて摩訶不思議な世界。セリーヌとジュリーが運命的な出会いをして、二人が「物語の館」(幽霊屋敷みたいなところ)へ侵入することが病みつきになってしまうように、この映画に出会ってしまった観客はきっと、二人の冒険に夢中になってしまうことでしょう。ジャック・リヴェット監督はよくその作品のなかで、「映画」と「演劇」、あるいは「人生」と「舞台」との差異を懐疑的に探求しているようにみえます。この作品の場合は「物語の館」の中の出来事が「演劇」に見立てられます(一度だけ唐突に拍手が鳴ることもそのことを暗示しているようです)。そこでは一人の少女をめぐるある「陰謀」(これも必ず描かれるテーマの一つ)が、いつ覗いても同じセリフ同じ間で繰り返されているのです。セリーヌとジュリーは二人で一役の、少女付きの看護婦として、何度も物語の中に侵入し、ときにはセリフを間違えたり、二人いっぺんに登場してしまったり、挙句、筋書きを変えて少女を助けようとしたりします。この辺りは、即興やアドリブで厳格な芝居ををメチャクチャにしているような面白さがあります。また二人はお互いの服を勝手に着たり、看護婦の制服や黒タイツ(「吸血ギャング団」のイルマ・ヴェップへのオマージュ)など同じ格好をしたりしているうちに、はじめのほうではエキセントリックにみえたセリーヌにかわって、後半はジュリーのほうが暴走気味になり、二人が入れ替わってしまうようにも見えるのです。そしてついに二人は「物語の館」の住人たちを館の外(そこはパリで「映画」の世界を意味しているようにもとれる)に飛び出させてしまいます。しかしはたして本当に物語の世界から抜け出せたのでしょうか。それとも逆に物語の中に閉じ込められて、メビウスの輪のようにグルリとねじれてもとのところに戻ってしまっただけなのでしょうか。CGも音楽さえもなく、ドキュメンタリー的ですらあるのに、ファンタジーでもあるという、なんとも説明のつかない不思議な魔法の迷宮みたいな映画です。「不思議の国のアリス」に着想を得て、監督や出演者でアイデアを出しながら作られたそうで、その豊かな感性には脱帽します。リヴェット監督は長くて難解だといわれますが、これは何も考えずに観ても面白くて楽しめると思います。映画の魔法にかかって出口を見失わないようにしなくては(笑)。