1.世界3大ロックバンドと言えば、ビートルズ、ストーンズ、そしてフーである。フーズ フー? 残念ながら日本でのフーの知名度は恐ろしく低い。このドキュメンタリーは、フーのデビュー当時からのライブ映像やインタビュー、そして新たに収録した演奏シーン等を追加して作り上げられたフーの歴史であり、ひいてはロックの歴史でもある。78年、時代はパンクである。パンクムーブメントの中では、ビートルズは過去の産物であり、ストーンズは現代の恐竜と呼ばれ、難解を極めたプログレや頭でっかちとなった産業ロックは嫌悪の対象であった。そんな中でも、フーはパンクキッズからリスペクトされる存在であり続けた。何故か?同年、彼らは『さらば青春の光』をプロデュースするが、この作品は彼らの出自であるモッズの青春像を捉えた傑作である。『さらば青春の光』と『キッズ・アー・オールライト』は当時のムーブメントに提示された1セットの作品ともいえる。それはロックの歴史であり、ロックとは何か??という彼らの回答そのものなのである。そう、ロックとは何か? この作品のハイライトである『無法の世界』のステージこそ、当時の彼らにとっての現在形のロックであり、彼らが「オヤジのロック!」と叫ぶありのままの姿であろう。そしてそれは彼らの限界でもあり、ロックの限界でもあったのである。言うまでもなく、フーは世界最強のライブバンドである。彼らのライブ盤を聴き、ライブ映像を観れば、彼らの激しいロックスピリットと高い演奏技術に誰もが感嘆するだろう。その象徴、ピート・タウンゼント。そしてキース・ムーン、最強ドラマー。残念ながら、彼はこの映画の公開を待たずに急逝してしまう。彼の不在によって、フーのメインストーリーは映画と共に一旦幕を閉じる。パンクが終わり、フーが終わり、70年代が終わる。ロックが70年代に突き当たったもの、その壁自体がロックの原点であると僕は思っている。今やロックミュージシャンはロックを真摯に抱えることしかできないし、それを抱えること自体の誠実さこそが貴重なのだといえるのではないか。ロックは何度も死んだと言われたが、それでもロックは残っていくものである、しかし同時にその表現のアビリティには幅としての限界があるのだ。深さや複雑さを無理やり単純化したり拡張したりするような装飾はロックにとっても人間にとってもいいことではない。