1.《ネタバレ》 チベットの高山地帯に生息するチベットカモシカは高級毛織物の原材料になることから、密猟者による乱獲が続き個体数が100分の1に減少したという。この映画は険峻なチベットの山岳地帯を舞台に、武装した密猟団とそれを阻止しようとする民間のマウンテンパトロール隊との壮絶な抗争の物語である。冒頭、捕縛された隊員が密猟団によって射殺されるシーンは、これから始まる戦いが、非情にして過酷を極めることを暗示するものの、観客が体験しなければならない現実は想像をはるかに超える熾烈なものである。90年代に起きた実際の事件を元にしているとはいえ、神々しいほどの山岳風景を背景に貧困と民族の誇りをかけた戦闘描写は息詰まる緊迫感の連続であり、第一級のアクション映画に仕上がっている。チベット民族の代弁者でもあるパトロール隊のリータイ隊長以下、隊員の青年たちは零下20度近い砂漠のような氷山のような舞台で泥だらけになりながら密猟団を追う。数々のアクシデントに見舞われ次第に疲弊していきつつも最後まで諦めない彼らに、ハリウッド的ではない真の男の姿を見た。1949年に始まった中国によるチベット問題が背景に存在していることを考えると、監督をはじめこの映画に携わっている人々がチベット民族である意味合いがことのほか胸に迫る。終影後の客席からは圧倒された観客たちの言葉にならない呻きが伝わってくるようだった。