55.《ネタバレ》 “完璧”としか言いようがない作品に仕上がっている。
たったの2時間30分で本当にこれほどヴォリュームある内容を詰め込めことができるのかというほど充実したものとなっており、なおかつストーリーが無理なく流れている。
「悪者を懲らしめる」「地球の危機を救う」という単純なヒーローモノとは一線を画しているのが特徴。
「正義とは何か」「善と悪との表裏一体性」「復讐と正義」などを観客に真摯に問いかけている。
トゥーフェイスを通じて、高潔な人間でも簡単に悪に染まるという“人間の弱さ”を描き、一方で二つのフェリーに託された起爆装置やバットマンの姿を通して、自己を犠牲にしても厭わないという“人間の強さ”を描いている点を評価したい。
殺しあうのも人間の本能だが、他人を守ろうとするのも人間の本能ということか。
簡単に悪に染まりもするが、簡単に悪に染まらないのも人間ということを描きたかったのではないか。
また、バットマンもジョーカーも、確かに一歩間違えればやっていることは同じことなのかもしれない。善良な人間を無差別に危険に陥れるのがジョーカーならば、悪人を無差別に倒すのがバットマンともいえる。彼らの姿は表裏一体のところがある。
しかし、バットマンは怒りに任せてジョーカーを殺そうとはしていない。
正確には覚えていないが、劇中で誰も殺していないのかもしれない。
バットマン自身も愛する者を失ったにも関わらず、「復讐と正義」の一線を超えようとはしておらず、“ゴッサムシティを守るため”という大義名分を守り続けている。
バットマンの姿を通じて、「正義とは何か」を問いかけている。
復讐することは正義ではなく、復讐は暴力の連鎖しか生まないと訴えているようにも思える。
このシリーズのバットマンは影が薄いが、今回はジョーカーに完全に食われることなく、真の意味では主役であったと思う。
最後まで見れば、タイトルに込められた想いが深く噛み締められる。
ヒーローとして賞賛されることが真のヒーローではない。
悪に負けないこと、正義を守り抜くことがヒーローということを伝えようとしている。
ジョーカーはあくまでも人間の弱さの象徴であり、自分の弱さに付け込まれたマフィアや汚職警官たちが本当の意味での敵だったのかもしれない。
ただのヒーローモノというよりも、奥深いメッセージが込められた作品である。