3.《ネタバレ》 ヤン・イクチュン演ずるサンフンが実に素晴らしい・・口から出る言葉は汚い罵り、すぐ殴るしょーもない奴なのに愛すべき一面を垣間見せる顔つきと態度で感情移入しまくりでした。ヒロインのヨニ役のキム・コッピは幼さが残る女の子なのに乱暴なサンフンと堂々とやり合う度胸を持ち合わせていながら、精神的脆さも見え隠れするような絶妙な見せ方に魅了されます。他のキャラクターも適役として言いようがないハマりっぷりでした。映画全体としては暴力シーンが多いのに、基本は静かで地味ともいえる感じに見えますが物語の巧みな展開とキャラクター造形で他の映画にはない独特の魅力を確立していると思います。舞台となる坂の町は平面の町にはない独特の広がりと奥行きを見せて、それだけで味わい深さを感じます。そんな町に生活するサンフンとヨニはお互いの素性や過去を知らないまま交流を続け、家族問題に苛まれるとサンフンはヨニを呼び出して、ヨニも応じ家族のシーンではお互いに見せない穏やかなひと時が淡々と映し出される所は一見、微笑ましいですがヨニの家族の問題はヨニの弟がサンフンの仕事に絡む展開になり深刻化されているので、関係を何も知らないヨニとサンフンの姿に何と言えない切なさがあります。しかし物語を経てサンフンはヨニにすがり号泣しヨニも号泣し、お互いに心を許した事でサンフンに前向きな変化を見て物語は希望的なものに収束するかと思いきや・・サンフンの今までの暴力が取り返しの付かない連鎖に巻き込まれていた事を見せるあの瞬間はすべてを打ち砕き、どうしようもない気持ちにさせられました。しかしサンフンが寝そべる姿のショットが実に美しいのが参りました。そしてそれぞれの家族が何とか悲劇を乗り越え立ち直るかに見せた瞬間のラストシーン・・ヨニは自分の忌まわしき最悪の過去を新たに目撃しその中に弟がいてヨニは呆然と見つめる・・しかもその姿にサンフンの姿が重なり、すべてを悟ってしまった、あのラストシーンは確実に何かに蝕まれ、どんよりしているのに美しさも兼ねていて『うわぁ・・どうすりゃいいのよこの光景?』と困惑してしまい、どう感じたらいいのか分からなくなるくらい衝撃でした。終わっても頭の中では勝手にラストシーンと様々な画面が繰り返され脳内再上映状態になり、しばらくこの映画から離れません。その現象が私にとって『傑作』という証拠です。