1.《ネタバレ》 この映画の予告編は次の意味深なニーチェの一文で始まる。「お前が深淵を覗き込む時、深淵もまたお前を覗き込んでいるのだ」~『善悪の彼岸』より。その一文の通りの映画だったと思います。この映画の暴力シーンは他の映画の様に濾過された暴力ではなく、純品の暴力です。オープニングで主人公の妻が惨殺されるシーンにそれは非常に良く見て取れます。有り得ないとは絶対に言いきれない暴力。女性が一人で車内にいた場合に、連続強姦殺人鬼にあの襲われ方をされると、彼女と同じ運命を辿るしか無いでしょう。このシーンで私は一気にこの映画の出来事が非日常の事とは思えなくなりました。だから主人公が究極の復讐に燃える感情も良く理解出来ました。主人公は最終的に悪魔になってしまいますが、それが正しい選択だったのか、誤った選択だったのかは誰にも分からない。しかし一つだけ確かな事は、私も悪魔になる可能性を秘めた人間だと自覚させられたことです。私も犯人に然るべき苦しみを与えようとすると思う。つまりこの映画はオープニングの後、主人公と同じ選択をし得るかどうかで評価が変わる映画なのだと思います。私は見事に深淵に覗き込まれた一人でした。否応も無くそれを自覚させられる事が何よりも恐ろしい。