3.《ネタバレ》 この映画を最後に見たのは何年前になるだろう。ふと、グレゴリー・ペックが暴れ馬を乗りこなそうと悪戦苦闘するあのシーンが見たくなり、新宿HMVに足を運んだ。
この映画、既に何度か見ているが、今日改めて見直してみたところ、面白い、実に面白い。3時間近くの間、身を乗り出すようにしてスクリーンに見入ってしまった。
グレゴリー・ペック扮するジム・マッケイは、力と銃がすべてを決する開拓時代のアメリカ西部で、理性と知恵であらゆる困難に立ち向かっていく。そして、本当の男らしさ、勇気とは何かを、身を持って表していく。決して周りに見せ付けるようなことはしない(筋肉馬鹿のスタローンとは大違いだ)。
だからと言って彼は決して弱い男ではない。たくましい牧童頭から喧嘩を売られても大勢が見ている前で殴りあったりはしない。後でその男だけを呼び出し、1対1で勝負する。だが、女性が暴力を振るわれれば、その相手をその場でぶちのめす。西部劇だというのにヒーローが最初から最後まで丸腰というのはちょっと他の作品ではないのではないか。
周囲の多くの人間はそんな彼を「腰抜け」と呼ぶ。だが彼は意に介しない。黙々と自分のやり方を貫く。だから彼は映画の最後まで、多くの人間に取っては「腰抜け」のままだ。ごく少数の人間だけがそんな彼を理解しているのみ。
前回この映画を見た俺は何歳だったろう。あの時はこの作品をただ「西部劇」としてしか見ていなかった。だが、1958年という、この映画が作られた年代を考えれば、これは冷戦時代に向けた強烈なメッセージを含んでいる作品だったと、今なら分かる。そういった意味では実に画期的な西部劇だったのだ。
力と力の対決はいったい何をもたらすのか。そして秩序を作っていくものとは何か。そんなことを訴えかけていながら、決して娯楽性を失っていないところは名人芸と呼ぶしかない。
最近はこんな映画を作れる映画人がいなくなってしまったように思う。