1.《ネタバレ》 レンタル店で、ふと【発掘・良品】という帯のついたDVDを目にしました。それが当作品で、すぐレンタルしました。
当作品は、私が小学校高学年時に日本で公開されました。私にとっては、床屋の待合室で、少年誌に掲載されていた【内容紹介の漫画】を読んだときの印象が強烈でした。その漫画には「自分も交通事故で妻と子供を失った。だからオルカの気持ちがわかるんだ」と漁師ノーマンが語る場面がきちんと描かれており、私の頭に「この映画は、しっかりとしたドラマなのだ」と刻み込まれました。
その後、中学生になりTVの月曜ロードショーで観たときは、結末がわかっていたとはいえ「もし、ノーマンが、オルカの奥さんと子供の命を奪ったことに何も感じない悪人なら、観ていてどれほど気楽だったろう…」とやるせない気持ちで一杯になりました。
今回レンタルしたDVDには、月曜ロードショーの吹替えが収録されており嬉しく思いました。字幕でも観ましたが、以下、吹替えでの言葉を引用して書きたいと思います。
今回の再見で、少年時代の気持ちが蘇ったのは勿論ですが…感情のある存在としてのオルカの描写に加え、人間ドラマもあらためて丁寧に作られていると感心しました。
まずノーマンは、人前では作り笑いで取り繕いながらも「罪とは自分に対して犯している」という神父の言葉を真摯に受けとめ、「自分はオルカにとって、不埒な運転(字幕版では飲酒運転と明記)で女房を殺した奴と同じだ」「みんな俺のせいだ…許してくれ」と、自責の念にさいなまれる人物として描かれており、リチャード・ハリスが熱演していると思いました(吹替えた宮部昭夫氏は、私にとってカーク・ダグラスの声で馴染みがありましたが、ノーマンの人柄には合っていると感じました)。しかも今回の再見により、開始42分めで【オルカの妻の流産と、ノーマンの妻に起きた不幸な事故とが、フラッシュバックする場面】を認識できました。一瞬のシーンですが、ノーマンの心情を上手に表現していると思いました。
そして、当初、ノーマンを非難していた海洋学者レイチェルが、次第に彼の理解者になっていくプロセスも見事だと思いました。
それとは対照的に「あんたのオルカのせいだ」と責め続けた漁業組合長スウェインが、村人達と冷たい視線でノーマンの船出を見送るシーンは、漁村の死活問題で無理ないとはいえ、“よそ者”への集団心理を象徴的に映像化していると感じました。
一方、オルカの怒りは、ノーマンだけでなく、他の乗組員達にも及びます。このように【家族を失った怒り・憎しみの矛先が、原因となった相手だけでなく、次々と拡大していく】という現象は、この【フィクション】に限らず【現実】の対人関係や、戦争・テロにも通じているのでは…と思いました。それだけに、最後の闘いでノーマンがオルカに対し「お前はいったい何者なんだ!」と叫ぶシーンでは、【復讐】という言葉だけでは言い表せない、何か空恐ろしいものを感じずにはいられませんでした。
ところで、皆さんのレビューを拝読して「ジョーズ(1975年)のパクリか否か」という文面を幾つも目にしました。この点について私は「パクリという言葉を、どのような意味合いで定義するか」によって変わるかな…と思います。
つまり、最近、よく使われている【あるヒット作品に触発されて作られたもの・インスピレーションを得たもの】というザックリした意味合いなら、確かにパクリに該当するかもしれません。何故なら、↓の【鱗歌】さんのご指摘の通り、冒頭でホワイトシャークを撃退するシーンは、明らかにジョーズを意識し、そこのBGMも似ていると思うからです。
一方、古典的な【盗作/ヒット作品に便乗して儲けようという、その場限りの安易な作品】という意味合いなら、パクリではなく、ジョーズに触発されつつも独自性を確立した成功作品だと考えます。少なくとも私にとっては、海洋パニック映画という枠を越え【家族愛の裏返しとしての憎しみ/罪/排他的な集団心理】など、勧善懲悪や予定調和では割り切れない、人間の普遍的なテーマについて静かに訴えかけてくる力作だと思います。
さて、採点ですが…鑑賞環境は、DVD(吹替え)とし、マイケル・アンダーソン監督をはじめ、今は亡きリチャード・ハリスへの敬意を込め、10点を献上させていただきます。これからもエンニオ・モリコーネの哀愁に満ちたテーマ曲と共に【オルカの瞳/オルカの気持ちがわかるからこそのノーマンの苦渋に満ちた表情】が、いつまでも私の脳裏に浮かび続けることでしょう。 *字幕版だけで聞けるエンディングのボーカルも味わい深いです。
そして最後に、【発掘・良品】の帯をつけて下さった見識の高いレンタル店のスタッフさんに感謝したいと思います。