3.《ネタバレ》 冒頭の、映写技師の仕事中の「1ドル札事件」が秀逸。主人公の性格を、手際良く鮮やかにまとめて見せる辺りの見事さは、チャップリンと同様で、文句なしに「喜劇王」たる資質でしょう。
そして後半、悪者たちから逃れるシーン。行商人が壁に背中合わせになって立ち、首から提げたトレイを「ここ、ここ」とキートンに指差す。悪漢2人に追い詰められたキートン、彼らの虚を突き、行商人に向かって突進、そしてトレイの中を目掛けて、頭からダイビング!…壁から離れて、何事もなかったかのように平然と歩き出す行商人。忽然と姿を消したキートンと、呆然とする悪漢。ドキュメンタリー『バスター・キートン:ハードアクトに賭けた生涯』 (1987) の中で、後年『バスター・キートン物語』でキートンを演じたドナルド・オコナーさんが、このシーンをどのようにして再現したかを語っています。一流のマジックショーのように、何度観ても全く仕掛けが判らない、絶品のアクロバット芸です。