1.《ネタバレ》 この映画の物語を、現在、素直に受け入れることは難しいかもしれないし、公開当時ですら小津の失敗作とされた作品です。しかし、社会的ともいえるテーマを個人の問題として提示し、それを骨太く構成する小津の技にはまったく驚きます。子供時代の何気ない思い出話が娼家のシーンに生き、それは笠智衆と佐野周二とのやりとりにつながっていく、その伏線の旨さ、それが生きてくる構成の妙。イメージのみが優先される今の映画にはない、古典的なドラマツルギーの力強さに感動します。それにしても、階段から転げ落ちた田中絹代が起きあがろうとする、俯瞰ショットの不気味さは何なのだろう。ラスト、佐野の背中をはいずり回り、祈りにも似た身振りを演じる、田中絹代の不気味な腕は何なのだろう。その不可解、触感、唐突が、古典的以上の何かを現在に残しているように思う。小津はやはり不気味だ。