1.人の心の絶対的な閉塞感とそれに対する穏やかな諦観を、静かな眼差しで描いた大変な秀作だと思う。人間は曖昧さが好きなんだと思う。きっと明確な答えよりも。事象全てを曖昧さのオブラートに包むことで、自らを守っている。そして、生きている。人には、閉鎖的であることで安堵を感じる絶対的な性質がある。認めようが認めまいが。人生の曖昧さなんて、誰にもどうにも出来ない。そんな諦観を静かに、だからこそどこか温かい視線で、エゴヤン監督は提示する。徹頭徹尾決して分かりやすい物語ではないが、観客を突き放してもいない。引っかかりも残るが、取っ掛かりもきちんと用意されている。観るものによって、それは千差万別なのだろうけれど。押し付けがましくなく、思考を促させる。久々に私は、生きることの難しさについて淡々と考えた。そしてそんな私にこの作品は語る、「人は矛盾する、人の心は弱い、人の心は難しい、でもそれでいい、それでいいのだ。人はそれでいいのだ」と。何か大いなるものの目線からの、人の不完全さに対する公平で温かい視線を感じる。人の手に作られた映画を超越した、何とも言えない寓話性を感じる作品。誰が何と言ってもいい。でも私にとってはこの作品は大変な秀作です。いえ、それを超越しているのかも知れない。至高の傑作と言っていいのかも知れない、そんな作品です。