1.《ネタバレ》 ジャン・ルノワールの直弟子ジャック・ベッケルの秀抜さが全開の傑作フィルム・ノワール。名匠ベッケルの師匠譲りのリアリズム描写に加えて、地に足の着いた生活感溢れるマックスとリトンの遣り取りは正に彼の真骨頂!初老のオヤジが二人でラスクをボリボリ食い、パジャマに着替え、歯ブラシを持って歯を磨く。「そんな瑣末な事を仔細に描いたからってソレがどうした?」とキレるようではベッケルの作品を鑑賞するのは無理、十年早いと言うモノだろう。ブーシュの料理店やピエロのナイトクラブではジョジィやローラといった若い娘相手に精一杯渋くキメていても、矢張りマックスと言えど忍び寄る老いは自覚せざるをえない事を(ディテールに拘った)映像で観る者に納得させる見事な手腕と読み取れないようでは。盗んだ金塊の換金方法といい、踊り子にちょっかい出す照明係といい、本当にこの監督は隅々まで精緻な演出が冴え渡っていて手抜きが無い。だから無言の強い説得力を持って我々を画面の奥へと引き込むのである。そして「静と動」の鮮やかなコントラスト。クライマックスでのアンジェロとの対決では地味な生活描写の溜めがグンと活きて、車が金塊ごと爆発炎上する様を迫力に満ちたタッチで描き出す。要所要所を締める主題曲「グリスビーのブルース」の哀愁に満ちたメロディが又絶妙だった。安直なヒロイズムに陥る愚を犯さずテーマ「犯罪は割に合わない」を描ききったベッケルに拍手!勿論10点満点で御座います(笑)。