1.この作品は、松竹蒲田調・大船調へとつながる小市民映画の代表的傑作ということで、非常な感慨をもって見させていただきました。内容は、まさしくお隣同士の一家の交流を、日常生活的な台詞をもって実に生き生きと切り取っていきます。まずキャッチボールをする兄弟、これがオープニングなんですが、このボールがミットにおさまるパン、パンという音が日常の反復をあらわすかのように始まります。そしてガチャンと隣の家のガラスを割る音。日常にも多少の起伏はありますよ、ということでしょうかな。まあそんな感じで、父親同士で一杯やったり、子供同士でお風呂へいったり、自分の家が留守なので隣家でお茶漬けを食べたり、靴下を繕ったり、とそんなことが積み重ねられていきます。女学生の八重ちゃんを演じる逢初夢子さんの愛くるしい表情、キャハハという笑い声が屈託ないこの隣同士の一家の関係を象徴していますね。そこへ八重ちゃんの姉が、嫁ぎ先を飛び出して帰ってくるのですが、演じる岡田嘉子さんの台詞回しが、彼女だけが異分子ですよと言わんばかりの舞台調であるのもおかしいです。カメラは、引いたり、クローズアップで撮ったり、ハイポジションで撮ったり、洗濯物など心象的な風景を挟んだり、とても工夫されています。家屋内の人物構図もきまっていますね~。編集もけっして単調になることなく丁寧にカットがつながれています。ラスト、八重ちゃんが兄弟一家と一緒に暮らすことになるのですが、その時の台詞「もう隣の八重ちゃんじゃないわ、キャハ」。う~ん、素晴らしい台詞ではないですか。この歴史的作品にはもう10点をつけるしかないですね、キャハ。