1.広島、長崎の原爆投下をテーマとした映画は数多くあるが、進駐軍が睨みを利かす戦後間もない状況下、真っ先に取り上げた姿勢だけでも充分評価に値する。しかもこの映画は原爆投下から7年しか経っていないこともあり、つめ痕が残る被爆地広島の貴重な記録フィルムという側面も持っている。監督と脚本は新藤兼人。監督初作品である前作は小手ならし的な自伝的小品だったが、今作が巨匠新藤兼人の世に問う本格的なデビュー作と言っても良いのではないだろうか。その後も広島の原爆や核の恐怖を取り上げた新藤作品は多いが、それは監督自身が広島出身であると共に人間として許されざる行為であることに他ならない。この映画は原爆投下当事、広島の幼稚園で教師をしていた女性(乙羽信子)が7年後、かつての教え子たちに会いにゆく姿をセミ・ドキュメンタリータッチで描いている。作り手たちの情熱や意気込みが充分過ぎるほど感じられるし、なにより役者陣個々の確かな演技力に支えられており作品そのものの完成度は極めて高い。とりわけ戦争と原爆により我が子と家屋を失い、しかも視力までも奪われてしまった岩吉爺やを演じた滝沢修には文句の付けようがない。その痛々しい姿から放たれる演技は原爆の悲劇性を完璧なまでに具現しており、ただただ悲痛であり見る者は涙なしではいられないほどである。「なんぼでも生きるんじゃ。こないな姿顔を世間の人に見てもらうんじゃ。」など胸に突き刺さる台詞もいくつかあり、それらは原爆でなすすべなく虫けらのように死んでいった二十万人もの市民の声を代弁している。「8月6日は永遠に忘れてはならない」と訴えているこの傑作に、何らためらうことなく10点満点を付けさせて頂きます。