2.《ネタバレ》 本当に素晴らしかった。 監督らしい反骨精神、ブラックユーモアも健在で衣装や配役も美術も隅々まで凝っていました。
舞台はフランス革命の頃の血生ぐさ~いスペイン。
若く美しく裕福な商人の娘が、ディナーの豚肉を食べなかったという、それだけの理由で異端審問にかけられたという悲劇を軸に、宮廷おかかえ画家、異端審問官、聖職者、商人、王族、娼婦というそれぞれの立場のあの時代を見せてくれます。ゴヤは反骨精神を持つ画家として認識されています。初期の享楽的な貴族の絵から「わが子を食らうサトゥルヌス」の様な暗い絵、虐殺への怒りや死の溢れるリアルな銅版画へと変貌する人生は、フォアマンが描きたくなるのも納得です。原題が「ゴヤの幽霊」であるとおり、
ゴヤはこの作品では傍観者で、決してヒーローとして描かれてはいません。その潔い選択は成功だったと思うものの、見る人を選ぶ映画にはなったかもしれません。
当時の異端審問はその残酷さと理不尽さに歯軋り。「潔白であるならば神は痛みに耐えるお力を授けて下さるはずだ」 という無茶苦茶な理由で 「だから拷問で自白したことは真実だ」 と、何を自白すればいいのか、 自分がどの異端の罪を疑われているのかも知らないまま、告発された人間の運命は自白して処刑されるか、廃人になるまで投獄されるか、自白せずそのまま拷問で殺されるか。
この映画には、その不正に真っ向から立ち向かう者が一人居ます。
イネスの父。 彼の行動こそフォアマンの不屈の反骨精神そのもの!
イネスの家族には涙が溢れました。
異端審問も吹き荒れる王制のスペインに、
やがてフランスから革命の波と軍隊が押し寄せます。
しかし、ナポレオン軍がしたこともまた新たな侵略だった。
権力が転々と変わる中で、
ゴヤはその時代に翻弄される民=イネスを見つめ続ける。
エンドロールで流れ続けるゴヤの絵ですが、 宮廷絵や恐ろしい絵や悲惨な絵のあと、最後に映るのが明るい少女の絵と自画像なのがまたお見事です。