1.《ネタバレ》 マドンナは2回目の吉永小百合。
9作目の柴又慕情の続きということで。今回も恋愛という点では寅さん最初からアウトオブ眼中。焦点は吉永小百合演じる歌子の自立と父親(宮口精二)との和解である。そこに主に絡んでくるのは、寅さんではなく、今回はさくらと博である。この二人が本作品の立役者だろう。茶の間でのいわゆる「幸福談義」では博の言葉が光る。このころになると、博は監督である山田洋次の代弁者ともいえる存在で、今回のお題「幸福とはなにか?」を理屈っぽく答える博に山田洋次の思いが重なるのである。(その対極は理屈ではない寅さんなのだろうけど) 最後のとらやでの歌子と父親の和解のシーンは泣けた。シリーズで一番泣けるシーンだったかもしれない。あの宮口精二を泣かせるのだから、もうしょうがないね。
冒頭に、寅さんがタコ社長とさくらを連れ立ってお嫁さんにしたいという女性に会いに行き、超速で振られてしまうのだけど、その相手が宮沢保のお母さん(『金八先生パート1』)というのが少しツボだった。
松村達雄のおいちゃんはこの作品で最後。今回もなかなかいい味を出していて(パチンコ好きのちょっとやくざなおいちゃん)、ちょうどこなれてきたって感じだと思うのだけど、彼はおいちゃん以外の役でこの後も結構活躍することになるので、このあたりが潮時だったのかな。彼はおいちゃんをうまく演じていたけど、おいちゃんそのものにはならなかったのだな。