1.《ネタバレ》 無法と暴力と。その時代は粗にして野、なおかつ卑。無法に抗する正義はわずかに在るが、暴力に対してやはり暴力を用いる。勝利した正義も、結局はさらなる暴力によって惨死をもたらされる。人命は軽い。/しかし、そんな時代だからこそ登場人物たちは強烈な存在感を有している。烈火の気性のチュタオ。絶対強者として不敵な魅力を放つルン。瀕死の主人公テンゴンを助けた名もない少女は野人のように汚れて醜いが、最後は死闘を終えた彼に寄り添い何処かへと去って行く。おそらく死が分かつまでふたりは離れないだろう。そして、全ての苦難を越えてラストバトルに立つテンゴンを目にした時の高揚感を評者は忘れない。/さて、語り部であるリンによる後日談を持ってこの凄惨な物語は閉じられるのだが、そのラストシーンでは白昼夢を見ていたかのような感覚に捉われる。動と静、血しぶく阿鼻叫喚と白濁の微睡み、この落差が本作を怪作たらしめている。序盤ではヒロインかと思われた彼女の喪失感が痛々しい。評者も言葉を失った。回想に現れるテンゴンとチュタオの浄化されたように美しい笑顔が印象的である。それが幻であったとしても。/初見はもう十年も前のことだが、本作への思い入れが強くレビューを書けなかった。その間にラストバトルだけの作品という評価ができてしまったようだが、決して見所がそこだけということはないと評者は考える。人によっては一生ものになる可能性を秘めているので、例えば同監督のワンチャイシリーズに物足りなさを覚える諸兄にこそ本作をお薦めしたい。