1.《ネタバレ》 押入れの整理をしていたら、10年ほど前に録画したビデオテープを見つけたため、あらためて再見してみました。感想は10年前と殆ど変わりませんが、当時、我が家にはインターネットが無く、当サイトに投稿出来なかったので、この機会に明記します。
当作品は、シンバッド七回目の航海(1958年)における【小人化したパリサ姫】で披露した特殊撮影を、ハリーハウゼン氏がふんだんに導入し【ガリバーと小人族/ガリバーと巨人族】をワンフレーム内に違和感なくおさめることに成功していると思います。特撮と台詞を交えた各カットのつながりも大変スムーズで編集の緻密さにも感心させられます。【自由に切り貼りや、やり直しが可能なCG】とは異なり、当時の技術は【フィルムが現像されるまで意図通りに仕上がっているかわからない】というものだったことや、かつ、必ずしも恵まれた予算の作品ではなかった点を考えれば、驚異的だと思います。おそらく、現代のCGに慣れてしまっている若いレビュアーさん達がご覧になると、特段、驚きは無いかもしれませんが、考えようによっては、驚きが無いほど自然に表現されていることが“驚き”かもしれません。余談ながら、主なロケ地は上述のシンバッド七回目の航海と同じだったようで、似たような(否、そっくりかも…)海岸・林・岩場が出てくるのも興味深かったです。
また、単に特殊技術だけが売りではなく、原作の【風刺作品】としての持ち味もしっかりと表現されていると思います。【恋人・エリザベスとの交流】という映画独自の脚色により、舞台が小人族の世界から巨人族の世界へと話が進むにつれて原作と異なってきます。しかし全体を通じて【権力者の身勝手さや自己保身/戦争の本質/一般の人々にとっての幸せとは何か】といったエッセンスは、十分、伝わってきました。基本的にはファミリー層向けの映画であり、巨人族の少女・グラムダルクリッチぐらいの年齢のお子さん(10~12歳ぐらいでしょうか?)と親御さんが一緒に観るとちょうどいいのかな…と思いました。おそらく、イギリスでの公開当時は、観終わった後に、上述のエッセンスについて語り合った親子が多かったのでは…と想像したりしています。
なお、難点を挙げるなら①【ハリーハウゼン作品=モデルアニメのモンスターがたくさん出てくる作品】というイメージとは異なり、モデルアニメのキャラクターは巨人族の場面でわずかに【リス/ワニ】が登場するだけです。しかし、日本の円谷作品だって全てが怪獣主体というわけではないので、こういうのもありかな…と思います。また②小人や巨人は普通の速さの動きで撮られており、スローモーションで巨大感を表現するといったことはしていません。バーナード・ハーマン作曲のBGMが、小人らしさ・巨人らしさを巧みに表現していると思ったので映像と音楽との間にちょっと違和感がありましたが…当人達は「普通の人間」と思っているわけですし、だからこそ、やりとりの中の【風刺】が際立っていると言えるかもしれません。
さて、採点ですが…私にとっては【ハリーハウゼン作品】の範疇を越え【優れた風刺映画の古典】として印象に残っている作品です。当時、日本未公開だったのは残念ですし、展開が単調と言えば単調ですが、敢えて10点をつけさせていただきます。ガリバー旅行記を単なる童話と思っている人達が、原作を読もうというきっかけにもなり得たら嬉しいです。