1.開始早々の街頭の時計は午後9時5分、それが終末では10時17分を指しているように、上映時間72分のこの作品は同時進行という手法で有名ですが、なによりも秀逸なボクシング映画に仕上がっています。マネージャー同士で八百長(SET-UP)成立、どうせ負けるからとロートルボクサーの主人公には伝えずピンハネするマネージャー、さてゴングが鳴ると・・・。その試合は誰も注目しないメイン戦の後のラストゲーム、ポップコーン売り、ピーナッツ売りの声が空しく響く中、そのボクサーの奮闘と街を彷徨う恋人とのカットバック、その動と静が良い。またその試合が始まるまで、ひたすら控室に据えたカメラはリングを一切映さず、試合前後に出入りするボクサー達の恐怖に怯える表情、自信に漲る筋肉を切り取り、ボクサーという職業の宿命を描き出す。フィルム・ノワールの雰囲気を全編にたぎらせた画面がラストに見せる「PARADISE CITY」と「DREAM LAND」の電光に、祝福の暖かな光が見えるのです。