1.《ネタバレ》 イチャンドンの映画はいつも唸らされる(今回は製作者ですが)。透徹とした眼差し、情に流されない確かな人間を観る眼。これは私見なのだが、「ペパーミントキャンディ」で既に世界を見る眼を持ってしまった、稀代の天才映画監督イチャンドン。彼は、人の心をうつ作品を新たな視点からどんどん産み出していく。まるで何で皆、こんな作品を創らないかと言わんばかりに、周りが職業として映画監督になっていく中で、彼は静かにメッセージを放っていく。そこには覚悟のようなものも感じられる。まるで、彼は芸術としての作品を創り続けていけば、いつか自分の身にも破たんが来ることを分かっていつつ、静かに作品を紡いでいってるように感じられるからだ。彼の遺言のような作品を、僕はいつまで観続けることができるのだろうか、と不安に駆られつつも、新しい作品を楽しみにしている自分の、観客でいられる狡さという罪悪感を感じつつ、待ち続けている。僕は表現に「詩」というものを救いに思っていた。最後はどんな作家も「詩」のような結晶になって、幕を閉じていただけたら、と。そういえば彼は「詩」をも前作「ポエトリー」で対象にしてしまった。あれは美しいものを美しいと言わなきゃ、世界が壊れるという詩だった。今回の、本作品は、実は自分の心を誰か溶かしてくれと言ってるのではないか?とすら思える。もう世界が彼を認めてるはずだ。どうか幸せになってほしいと心から、この良心の作家に敬意を表します。