1.映画の中盤、ワインとチーズを食するクロード・ドーファンの手にナイフが光る。
その禍々しい光沢、それだけでそのナイフが後々何らかの悲劇を引き起こすであろう
ことを仄めかす。
説話上の段取りとして配置された単なる伏線に留まらない。
物語とは無関係にみえるさりげない細部でありながら何故か胸をざわつかせる、
その不吉な光沢の描写力が圧倒的なのだ。
それこそ、より映画的な伏線のあり方と云えるのではないか。
果たしてその刃はウィリアム・サバティエの胸を貫く事となり、
ナイフ、剃刀、と変奏される刃はラストのギロチンへと連なっていく。
その処刑シーンを階上から見届けるシモーヌ・シニョレの金髪。
その光沢もまた逆光の中でひときわ高貴に輝いている。
ダンスシーンの優雅な回転運動。
その中での、セルジュ・レジアニとS・シニョレの視線劇のスリリングなあり方。
決闘シーンのコントラストの利いた照明設計。
ルノワールゆずりのボートシーンの瑞々しさ。
小鳥のさえずりの官能的な響きと、
全編見所見どころに溢れている。