1.《ネタバレ》 映画の冒頭で、主人公・キャサリンは 叔母のラビニアと、料理について堂々と自分の考えを述べ、機知に富んだ会話をしています。決して気弱なわけではないことがわかります。しかし、人見知りが強いのか、父親や、身内以外の、特に若い男性にはオドオドとして良い面を見せることが出来ません。父親も、根底では「心優しい娘」と思っているのに、亡くなった妻と比較して否定的な態度をとり続けてしまう…そして娘を守るつもりで、つい言ってしまった一言によって、取り返しがつかくなってしまう…こうした父娘関係が、ズシリと残りました。
キャサリンを演じたオリビア・デ・ハビランドは、私にとって、風と共に去りぬ(1939年)のメラニー役の印象が強く、そのため、父親と決裂した後の、父娘の態度が逆転した演技は見事だと思いました。しかし、その後、かなり勝気な女優さんだったことを知り、実は、前半の大人しい人柄こそ演技であって、後半は“地”を出しただけかも…と思ったりしています。
ワイラー監督の演出については、階段もそうですが、扉の使い方も上手だな…と思いました。特に、恋人(と思っていた)・モリスから捨てられたことがわかり取り乱したキャサリンを、階段による俯瞰ショットで捉え、扉を閉じて区切りとする抑制的な演出は、最近の直情的で生々しい感情描写が主流のアメリカ映画とは一線を画すものだと思われます。
暗闇の階段を昇っていくラストシーンのその後は、色々な解釈があるでしょう。個人的には、明るい曲調のBGMと相まって、キャサリンには、それまでのしがらみを断ち切り幸せな人生を送ってほしいと願いました。しかし、たとえそうだとしても、それは当時の時代だから成立するものだろうとも思いました。つまり、現在の世相では、キャサリンに愛想をつかされたモリスは、自らを恥じて退散するどころか、きっと逆恨みして家に侵入し彼女を殺めてしまうだろうな…ということです。まだ人と人とが、礼節と誇りをしっかりと持ち合わせていた頃のお話かな…とも思います。
さて、採点ですが、広く人間性について考えさせえてくれる名作であり、ドロドロしている内容であるにもかかわらず、最後まで品格を失わずにグイグイと引き込むワイラー監督の技量に敬意を示し、10点を献上します。